認知症を予防するために気を付けるべきこと|在宅医療と認知症(5)

これまで認知症の原因、種類、症状を解説してきました。認知症には多くの種類があり、また一度かかると治療困難なケースが大多数を占めることは少しずつご理解いただけていると思います。

今回はこの認知症を「予防する」ために気を付けることを解説します。

残念ながら認知症は不治の病であることも多く、治療できるタイプの方が少ないのが現実です。さらに確実な予防方法に関しては実のところ「存在しない」が答えとなります。

しかし、その発症メカニズムから日常において認知症にならないために注意しておくべきことはわかっており、これに関してご紹介したいと思います。予防方法は以下の3つに大別されます。

 

【在宅医療と認知症】

認知症とは。事例から理解する認知症の症状|在宅医療と認知症(1)

認知症の原因は?原因とされている生活習慣や疾患、環境変化など|在宅医療と認知症(2)

認知症の種類|在宅医療と認知症(3

認知症の代表的な4つの症状|在宅医療と認知症(4)

 

1.脳を刺激し活性化を図る「早歩き」の効果

認知症の予防として、当然のごとくいわれるのが、良い生活習慣、特に運動習慣と規則正しい睡眠の徹底です。

運動の時間を日常生活に取り込み、暖かさや寒さ、日差し、風の強さ、空気のにおい、草木の色や景色に至るまで屋外の環境からの刺激を受けることは、時間・場所の感覚を研ぎ澄まし、自分の身体に今どのような変化が起こっているのかを認知することにもなり、脳の活性化につながります。

 

実際、フィンランドで行われたフィンガー研究と呼ばれる認知症予防の研究では、早期認知症に罹患している方に週3回1日30分の「早歩き」と軽い筋トレを行いそれが継続できたとき、その患者さんの認知機能は実施前の25%も改善したとの報告がされています。

「早歩き」には身体の代謝を改善するというだけでなく、代謝の改善から神経や血管の増殖につながる生体物質が作られやすくなるとされており、これが脳内で新しい神経ネットワークを形成する手助けをしていると言われています。

 

そして、脳は寝ている間に認知症の原因となる物質を取り除いているとまで言われています。

睡眠不足気味の方は十分に睡眠がとれている方の5倍程度アルツハイマー型認知症になりやすいとも言われており、30分程度の軽い昼寝をすることで発症リスクを5分の1程度に軽減できるとの報告もあります。

 

また脳への刺激・活性化という点において欠かせないのが、周囲とのコミュニケーションの維持です。

他者との意思疎通はこれ以上ないほどの刺激を脳へ与えることから、それが実現できるのとできないのとでは認知症発症後の進行にも幾分影響があるようです。

例として、「昔話に花を咲かせること」も有効でしょう。

当事者が会話の中心になり、周囲へ気配りをしながら話をする、昔の自分の記憶を回想しながら家族で思い出を共有することは、脳内にしまわれている記憶を取り出すという意味で強力なリハビリにもなります。

高齢者の場合ではデイサービス先での同世代の方や施設職員など大勢の人と対面してなされる顔と顔を合わせる関係は、コミュニケーションを維持する場としては最適といえます。

 

2.動脈硬化を予防する 

前回までに認知症の種類をたくさん列挙しそれぞれの病気に関して説明してきましたが、実は診療していく中で医者を惑わせること、そして診断を複雑にすることの要因に、「認知症にかかった人の多くが他の認知症も合わせてもっていることが多い」ことがあります。

 

その中でも、「脳血管性認知症」をベースにもっている方が多く、患者さんの数からみればそれとアルツハイマー型認知症の両方を罹患することが非常に多いと感じます。

考えてみればこれは当然のことで、脳血管性認知症はもともと脳血管の動脈硬化が原因です。

人はどんなに健康であっても例外なく加齢につれて動脈硬化は出てくるもので、高齢になればなるほど動脈硬化による脳の変化は画像検査で認められるようになります。

そのためアルツハイマー型認知症の症状をしている患者さんが頭部MRIで精密検査をしてみたら多数の脳梗塞の痕や慢性的な脳血流の異常がみつかり、いったいどちらの認知症なのか検討がつかない、もしくはその両方が存在すると診断されるケースも多くみられます。

アルツハイマー型認知症の発症に関しては先ほども説明したように現在確実な予防策はありません。

しかし、脳血管認知症の予防つまり動脈硬化を予防する方法であれば、よく言われている生活習慣病の予防という観点で立ち向かえそうな気がしますよね。

 

では動脈硬化を予防していこうと決意するとします。ここで強調しておきたい点は、動脈硬化はすぐに出来上がるものではないということ。

何十年もかけてゆっくりと身体のありとあらゆる場所の血管の壁にダメージが蓄積し壁は硬く肥厚していきます。

そしてある時それが血管をふさいでしまい、脳血管であった場合に脳梗塞の発症となります。

つまり、年を取ってから(動脈硬化がだいぶ進んでから)の生活習慣病のコントロールでは正直遅く、若いころから健康状態、特に生活習慣病の出現に注意していなければなりません。

 

特に血圧に関しては注意が必要で、血圧が高い人ほど血管壁が常に通常よりも強く刺激を受けていることになります。

抹消の細い血管になるとその血管壁は破れやすく、血圧が低い人よりは高い人の方が身体のあちこちで毛細血管が破れやすい可能性があるわけです。

その血管が脳であった場合には小さな脳出血を起こしていることであるため、たとえ症状がなかったとしてもそのダメージは蓄積されていくこととなります。

 

どうすれば高血圧症にならずに済むのか?

やはり予防という観点では食生活は大切でしょう。

具体的に一つ一つの食品の最適な摂取量がどれくらいなのかはその個人個人の生活してきた生き方や体質があり規定するのは正直難しいのですが、患者さんが現時点で高血圧に罹患しているのならば、今現在の食事よりも肉類、塩分を減らし、魚や野菜類の摂取を多くすることは血圧コントロールをする上では常套手段です。

 

3.孤独にしない環境をつくる「自治体とのつながり」

孤独は患者さんからコミュニケーションを奪い、そして周囲からの刺激も奪います。

当然のごとく認知症の発症リスクは高くなります。

数日に1回スーパーの店員と会話を交わすだけなど、孤立は患者さんの生活リズムを狂わせることも多いため何らかの形で周囲の人間が関わっていたいところです。

 

H22年の国勢調査では65歳以上の高齢者のうち男性では10人に1人、女性では5人に1人が単身で暮らしているというデータが出ており、この割合は今後も上昇すると推測されます。

これを受けて自治体では地域包括支援センターを設置し、特に高齢単身者への目配りができる体制をとっています。

 

最近ではスマートフォンを利用する高齢者の数も増えているため、これを活用して体調や所在なども含めたネットワークを維持しようとする動きも活発化しています。

 

とはいえ実のところ、もともと孤立を深めやすい性格の方もいます。

若い頃から一人が好きで周囲と深いつながりを持たない自分のテリトリーをしっかり守るタイプの方です。

これらの方々は几帳面で繊細かつ責任感の強い方が多く、会社ではしっかりもので隙がなく、いわゆる真面目な頼りになるお兄さんお姉さんタイプとも言える人です。

このタイプの人は、一方で仕事以外でのプライベートをしっかり確保しようとする傾向が強く、友人付き合いが少なく人当たりは良いが休日などの過ごし方は謎であることが多い印象を持ちます。

他者に自分の自宅へ入られることへの抵抗が強く、いよいよ年をとった時にいざ介護サービスなどで急に自宅に介入しようとしてもそれすら拒否されることも多いです。

 

また最近ではマンション住まいの方も多いため、戸建て住宅の方に比べて自治会などでの付き合いが薄い方が増えてきているのも孤独が増強する一つの要因とされています。

その対策として、特にマンション住まいの方などへの自治会の参加を促せば、イベントなどで少し顔をみせるだけでも周囲との関わり合いをもつことができるようになります。

孤立回避への対策とはやはり地域ぐるみでの協力が一番であり地域包括センターや自治会が進んで努力していくことが大切でしょう。

 

まとめ

今回は認知症の予防に関して焦点を当てて解説してみました。社会とのつながりやそれに付随する個々の活発性が、認知症予防のカギになることは間違いないようです。古き良き時代と言われるような社会の一体感が大切にされていた時代をもう一度思い出し、その考え方を介護の分野に応用することでヒントを見つけられるのかもしれません。

 

参考文献:認知症ねっと https://info.ninchisho.net/

 

writer
浅野翔吾(あさのしょうご)
2006年 東海地方にある急性期病院にて初期研修 2008年 神経内科専修医 2009年 日本内科学会認定内科医 2012年 日本神経学会神経内科専門医 2016年 日本内科学会総合内科専門医 病院勤務の傍ら近隣の在宅医療クリニックにて共同診療に参加している。

 

【無料公開中】人気記事を資料にまとめました!

資料ダウンロード「感染予防」