訪問診療の患者さんの”腹水”診断と対処法|訪問診療・緊急往診のケースワーク(4)

訪問診療では患者さんが訴えるさまざまな症状に対応し、適切な対処をしなければなりません。在宅医療を行っていると、がんや肝硬変による腹水、または肺転移に伴う胸水、全身の浮腫など、水が溜まり過ぎることによる症状に悩まされることが多くあります。今回はその中でも“腹水”について注目してみたいと思います。

 

腹部膨満感の症状は薬で有効に抑えることが難しく、適切に原因を見極めて必要に応じて穿刺するなど、総合的な判断と対処が必要です。今回はそのような腹水の対処について考えてみましょう。

 

【訪問診療・緊急往診のケースワーク】

“尿閉”の診断と対処法|訪問診療・緊急往診のケースワーク(1)

“がん末期の呼吸困難”の診断と対処法|訪問診療・緊急往診のケースワーク(2)

訪問診療の患者さんの“発熱”の診断と対処法|訪問診療・緊急往診のケースワーク(3)

 

腹水がたまる原因と対処

訪問診療を受けている方の腹水がたまる原因は、主にはがんによる腹水肝硬変による腹水の2種類があります。

そして、腹水に対して積極的に行い得る対処は、大きく分けて5種類あります。

5種類とは以下の通りです。

 

・薬による利尿とアルブミン投与

・腹水穿刺

・腹腔静脈シャント

・肝硬変による腹水対する経頸静脈的肝内門脈短絡路(TIPS: Transjugular intrahepatic portosystemic shunt)

・腹水濾過濃縮再静注法(CART: Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)

 

最近では肝硬変による腹水に対して、従来の利尿薬に代わってトルバプタンが用いられるケースも出てきました。

他にも、肝硬変に対しては肝移植が根治的ではありますが、訪問診療が導入される患者さんには、通常現実的な選択肢ではありません。

 

腹腔静脈シャント

現在ではDenver-Shuntというシャントが主流として用いられています。

適応としては、薬物治療に反応しないような難治性の腹水です。具体的には薬物治療で改善が乏しく毎週腹水穿刺を要するような方です。肝硬変だけではなく、がんによって腹水がたまっている症例にも適応があります。

反対に、腹腔内に感染があるような場合は禁忌です。

有効な方法ではありますが、手技として当然在宅や外来では行えませんので、連携先の病院で行ってくれるかどうか確認が必要です。

 

肝硬変による腹水対する経頸静脈的肝内門脈短絡路(TIPS)

肝硬変による門脈圧亢進症で腹水が生じている方に対しては、経頸静脈的肝内門脈短絡路という方法もあります。

内頸静脈経由で門脈と肝静脈との間にシャントを作成することで門脈圧を低下させる方法で、一定の有効性があります。

適応を選べば8割以上の患者さんで改善を認めます。

 

ただし、肝性脳症が起こることもあり、もともと肝性脳症があるような方は適応外です。また、門脈血栓症、敗血症、高ビリルビン血症、高度な腎機能障害なども適応外となることが多いです。

 

こちらも在宅や外来では困難であり、提携先の病院の協力が必要になります。また、即効性はありません。

 

腹水濾過濃縮再静注法(CART)

穿刺した腹水から菌や細胞を取り除き、タンパク質を濃縮し再利用する方法です。

腹水を専用のバッグに貯めておき、それを2種類のフィルターを通すことで約10倍程度に濃縮するものです。

1981年に保険適応になり、ガイドラインでも推奨されています。

 

腹水穿刺してアルブミンを投与するという方法と基本的なコンセプトは同様ですが、自身のアルブミンを使うために感染症のリスクが少ないなどの利点があります。

ただし、IL-6などのサイトカインが含まれることから、投与時に発熱や悪寒を認める頻度が高いことに注意する必要があります。

 

この方法は外来でも可能です。また、在宅でCARTを行っているクリニックも存在します。

 

事例紹介

ここで、具体的なケースを紹介いたします。

症例 63歳男性 大腸がん末期の腹水

今回の患者さんは大腸がんで訪問診療が導入となった63歳男性です。もともと病院で腹水穿刺を行っていましたが、通院困難のため在宅移行になりました。徐々に穿刺する頻度が増え、ある晩「3日前に抜いてもらったけどおなかがはって苦しいって言っていて…」とコールがありましたので、臨時往診に向かいました。

 

往診時の状況

診察上、明らかに腹水がたまっており、エコーでも問題無く穿刺可能な状況でした。

いつも通り穿刺を行い、持続的な流出を確認した後、後は数時間後に訪問看護に来てもらうという段取りをし、30分程度で往診を終えました。

 

訪問診療で腹水穿刺を要する患者さんをみる場合、訪問看護をあらかじめ導入しておくと管理上かなり楽になります。

 

往診時の対処における留意点

がんによって腹水がたまる方に対して穿刺をするかしないかはしばしば臨床的に議論がなされるところですが、それを比較した試験はほとんど無いのが現状です。

「どうせ抜いてもたまるから」「タンパク質を喪失してしまう」という懸念の声もありますが、実際に抜くと短期間でも症状が改善しますので、患者さんは喜ばれます。

 

ただし、がんによる腹部膨満感の中には、実は腹水以外の原因も多く含まれます。

たとえば巨大な卵巣腫瘍や子宮筋腫であったり、腹膜や腸間膜への播種結節が無数にあったりなど、単純な水たまりではないことも多々あります。たとえ身体診察上、お腹の中が液体で満たされているように思えても、単に腫瘍内に液体成分が多い可能性もあります。

まずは、そもそも抜こうとして抜けるものなのか、抜いて意義があるものなのかを、原因と病態を正しく評価して判断することが大切です。そのためには、診察以外に携帯型エコーは必須でしょう。

 

在宅ならではの工夫・注意点

腹水穿刺を行う場合、在宅ではカテーテルを留置しておくこともしばしばあります。

外来通院でもできますが、もともと訪問診療が入っていて「自宅で医療を行う」ということへの受け入れが良好であれば、比較的そうした管の入ったままでの生活もすんなりと受け入れることができるでしょう。

ただし、その場合には事前に訪問看護を導入し、連携をはかっておいた方が無難です。

 

訪問看護師や他職種にお願いしたいこと

管の管理にはちょっとしたトラブルがつきものです。

医学的知識のないご家族にとっては、「お腹の中に管が入っている」という状況はとても不安になるものです。「流れが悪い気がする」「血が少し混じっているが大丈夫か」といった問い合わせなどが想定されますが、そうした不安に対して事前に話をしておくことで本人や家族の不安を軽減することができます。

 

また、腹水管理の基本的なことですが、とくにがん末期の方には無駄な水分を投与しないということも大切です。

「最近水も飲めなくなってきたから点滴してください」と患者さんのご家族に言われる場合があります。

近年、テレビなどで「ご高齢の方は水をたくさん飲みましょう」という主旨のコメントが流れていますので、「水を飲むことはいいことだ」と信じて疑わない方も多いのです。しかし、かえってそうした補液が有害になる可能性があり、苦痛を増やす恐れがあることを伝えてあげることも大切です。

 

まとめ

今回は腹水への対処についてお話いたしました。痛みに対しては痛み止めの調整である程度のコントロールが可能ですが、腹部膨満感は、薬だけでコントロールすることが難しい症状のひとつです。

穿刺の適応をきちんと評価するとともに、穿刺した後の管の管理などを訪問看護師と連携して行うことが大切です。

 

また、腹水に関する研究の多くは、腹水をどのような方法で除去することが効果的かという観点で行われていますが、比較試験が非常に少なく、とくに患者のQOLや実際の予後との関連を検証したデータはあまりないのが現状です。

ぜひこの機会に、腹水の対処についてあらためて考えてみましょう。

 

 

writer

しゅうぴん先生

普段は急性期病院で医師として勤務しながら、定期的に訪問診療も行い、最後まで患者さんに寄りそう医療を行っています。
また、正しい医療情報の普及を行う活動をライフワークとし、昼夜問わず精力的に活動しています。

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