今回は認知症の治療法、主に薬に関して解説していきます。
正直なところ、筆者の感覚だと現在使用できる認知症薬を内服することで認知症それ自体を治せるわけではありません。そのため治療法(治療薬)とコメントすることには少し抵抗があります。
一般的に「進行を遅くする」と言われていますが、その効果も限定的であることが多く、実際に同じ患者さんで飲んでいた場合と飲んでいなかった場合を比べることができないため、患者さんやその家族が薬を内服していて良かったと実感できることは少ないように感じます。
そのため外来に通院をはじめても途中で内服が続かなくなってしまい、最終的には通院が中断してしまうことも少なくありません。
そのような点を踏まえた上で、お薬の作用や副作用をメインに解説をします。2018年現在の日本において、認知症薬としての適応を認められているお薬は4種類です。
アルツハイマー型認知症に対して4種類、その中の1種類がレビー小体型認知症に対しても使用を認められています。
【在宅医療と認知症】
認知症とは。事例から理解する認知症の症状|在宅医療と認知症(1)
認知症の原因は?原因とされている生活習慣や疾患、環境変化など|在宅医療と認知症(2)
認知症を予防するために気をつけるべきこと|在宅医療と認知症(5)
アルツハイマー型認知症に対するお薬
アリセプト、レミニール、リバスタッチ(イクセロンパッチ)
これら3種類は一般的にアセチルコリンエステラーゼ阻害薬と呼ばれているお薬です。
脳神経細胞はそれぞれ突起のような部分で手をつなぐようにして細胞同士がつながり、他の細胞たちとやりとりをしている部位があります。
神経細胞同士が情報をやり取りする時にアセチルコリンと呼ばれる物質がその情報伝達の役割を果たしていることがわかっていますが、アルツハイマー型認知症ではこのアセチルコリンの作用が不足しています。
そこでこれらの内服薬は、このアセチルコリンを分解する作用をもつアセチルコリンエステラーゼと呼ばれる酵素の働きを阻害することで、作用不足のアセチルコリンの活性を促し脳全体の働きが良くなるだろうと考えられ認可されています。
現実に内服によって認知能力が改善したという方もおられ、現在内服できる認知症薬としては最も一般的なお薬と言ってよいでしょう。
また3つ目のお薬のリバスタッチ(イクセロンパッチ)は、パッチ製剤であり内服薬ではありません。背中などに貼付し、皮膚から薬剤が吸収されるため内服しなくても効果が狙える特徴があります。
基本的に患者さんは自分のことを認知症と認めたがりません。さらに認知症が進行してくると状況判断能力の低下からお薬の内服自体を拒む方もおり、これらの場合に有効です。
副作用
アセチルコリンはもともと消化管の運動にも大きく関連をしています。そのためこのお薬を飲むことで食欲不振、嘔気、嘔吐、下痢などの多彩な消化器症状を併発してくることもあります。
軽微であれば数日~1週間程度で慣れてしまい何事もなく内服できるようになる方もいますが、症状がそれ以上持続してしまう場合や食欲に大きく影響してしまうような場合は、やむを得ず中止を検討します。
その他、これらの薬は脳活動を活発にすることから、逆に興奮やイライラ、焦燥感などいわゆる落着きのない状態が酷くなることがあります。その他パーキンソン病のような身体の動きにくさや動作の緩慢がみられたりすることがあります。
このような場合、期待とは裏腹に介護者側の介護負担も大きくなるため、中止を検討することが大切です。
メマリー(メマンチン)
上記3種類のお薬の他にアルツハイマー型認知症に対して別の作用の仕方をするお薬です。
脳内には上記で述べたアセチルコリンの他にグルタミン酸と呼ばれる物質が存在していることがわかっています。
グルタミン酸は神経の興奮を伝える物質との言われておりアルツハイマー型認知症の患者さんの場合、このグルタミン酸が常に人よりも多く放出されている状態となっています。これによって常に脳が興奮状態にあり、これが混乱や焦燥などの症状につながっていくことや、その分脳神経細胞自体が消耗していくと言われています。
このグルタミン酸が作用する部位をメマリーの成分が阻害する(邪魔する)ことで脳の興奮状態を抑え、認知症の周辺症状を改善します。つまり、先に説明したアリセプトをはじめとする3種類のお薬は脳の活性化を促し、メマリーは逆に行き過ぎた脳の活動性を抑える形になることからアクセルとブレーキの関係にもよく例えられます。
そのため怒りっぽい、攻撃的、徘徊といった周辺症状の軽減効果を狙う時に処方され、処方対象の患者さんは比較的重度の認知症の方ということになります。しかし実際の効果のほどは、全般的な臨床症状に関して、この薬を内服していない方と比較して大きく改善はなかったともされています。
実のところデイケア、デイサービスなどへ参加する方が、この薬の効果よりも大きく貢献しているとも言われます。
副作用
めまいがもっとも多くみられます。飲みはじめに出現することが多く、軽微であれば1週間程度で慣れてくるようですが、転倒などリスクがある場合は中止した方が良いでしょう。
またけいれん、ふるえ、意識消失、激しい興奮状態などが重大な副作用として報告されています。もともとてんかんやけいれんの歴がある方に関しては内服開始に注意を要します。
以上がアルツハイマー型認知症に対して現在認可されているお薬です。
レビー小体型認知症に対するお薬
アリセプトについて
アリセプトは1999年に発売された当時アルツハイマー型認知症のみに対するお薬でしたが、2014年からレビー小体型認知症にも使用が認められました。今現在アリセプトはレビー小体型認知症に対する唯一のお薬といえます。
アリセプトはレビー小体型認知症における幻視を主にした幻覚症状を改善するとされています。
私自身の使用経験では、むしろアルツハイマー型認知症よりもこちらのレビー小体型認知症の方がはっきりとした効果があるように思えます。
幻覚がある場合、患者さんもそれが幻覚であるとわかっていても気味悪がり、時には混乱してしまうこともあります。さらに、それは夜間帯にひどくなることから家族の疲弊も招きます。
これをアリセプトを内服することで幻視が劇的に改善した症例をいくつか診てきました。
幻覚に対してはどうしても精神安定剤や抗精神病薬のようなお薬で鎮静を図ることが散見されますが、レビー小体型認知症の場合は、これらのお薬が例え少量であったとしても度を超えて効いてしまい過鎮静の状態になることがあり注意が必要です。
このような時にアリセプトの存在は非常にありがたみを増しますし、ある意味で真の抗認知症薬と言えるかもしれません。
これから将来の認知症薬について
先にも述べたように残念ながら現在において認知症を根本的に進行抑制できるお薬はまだ存在していません。
2025年には日本国内でも認知症患者数は700万人を超えると言われています。
世界的にもその患者数は増加の一途をたどると考えられ、介護負担や医療費の面からも早急な対策、治療法の確立が叫ばれています。2013年にはロンドンで行われたG8認知症サミットにおいて、各国で協力し2025年までに認知症の治療法もしくは緩和療法の確立を目指すと共同宣言も出されたほどです。
このような中で真の治療薬の開発が急がれており、アルツハイマー型認知症に限っていえば現在100を超える候補薬が治験中です。
その中でも日本の製薬会社のエーザイはバイオジェンとの共同開発でBACE阻害剤、中外製薬がロシュと共に進める抗Aβ抗体などが開発中であり、特にエーザイのBACE阻害剤に関しては治験フェーズ3の最終段階まで進んでいます。効果の期待できる薬の開発も時間こそかかるものの確実に進んでおり、もうすぐ我々の手が届くところまできています。
まとめ
数々の治療薬が現在開発中ですがこれらの薬もまた脳神経細胞自体を治したり、作り直したりするものではありません。あくまでもこれまでの薬よりも進行抑制作用が強いであろうお薬です。
そのためアルツハイマー型認知症が進行してしまった患者さんには大きな効果は期待できそうにありません。アルツハイマー型認知症は発症の25年も前から脳神経細胞には変化は生じているとも言われており、いかに早期に発見・診断し、それらの新しい内服薬が始められるかが勝負どころとなることは言うまでもありません。
参考:認知症ねっと https://info.ninchisho.net/
