在宅における“熱中症”の診断と対処法|訪問診療・緊急往診のケースワーク

訪問診療では患者さんが訴えるさまざまな症状に対応し、適切な対処をしなければなりません。梅雨時期から夏場にかけては、普段外に出ないような訪問診療を受けている患者さんでも、熱中症にかかってしまうことがあります。今回は、高齢者の健康を維持していく上で意外な落とし穴になり得る、「高齢者の熱中症」についてまとめます。

症例 85歳女性 めまい

85歳と高齢で、軽度の認知症があるものの、週3回の訪問介護を入れながら独居をされている方です。娘さんが近くに住んでいて、1週間に2-3回様子を見ていますが、6月の中旬で蒸し暑い梅雨の時期に、めまいがひどいようだとの連絡が娘さんからあり、往診しました。

 

往診時の状況

往診時にはHR102と頻脈を認め、軽度の倦怠感、立ちくらみなどの訴えがありました。

もともと高血圧と心不全で降圧薬や利尿薬を服用していますが、2月に寒さもあって、頻尿になり、抗コリン薬を追加されています。

最近では温かくなってきたため多少頻尿の症状はよくなってきていましたが、冷房をつけると体が冷えてまた頻尿になるのでないかと思い、暑くても我慢するようにしているとのことです。

 

訪問前日の夜は特に湿度と温度が高く、状況的に軽度の熱中症の可能性が高いと考え、点滴を行ったところ、症状の改善を認めました。

 

往診時の対処における留意点

健康な若い人では、暑熱環境におかれていても、自律神経が働き、体温は一定に保たれます。

皮膚の血管が拡張することで皮膚から熱が放散し、汗をかくことによって気化熱で熱を下げるという反応をすることができます。

しかし、高齢者はそもそもそうした生理的機能自体が低下しています。

 

また、高齢者は暑さを感じにくくなるため、エアコンを設置しているにも関わらず積極的に使用していないことや、気温に対して適切な服装ができていないこともあります。

 

さらに高齢者は比較的体内の水分量が少ないことや、のどの渇きを感じにくい、または口渇感や尿量を変化させる薬を服用していることも多く、気づかぬうちに脱水に陥りやすいという側面もあります。

 

特に訪問診療を受けている高齢者においては、非労作性熱中症が多いですが、「高齢女性」「糖尿病・高血圧」「認知機能低下・精神疾患」「独居」などの因子が多いと特にリスクが高いとされています。

 

今回の症例のように、尿や口渇感に関する薬を飲んでおり、高齢女性で独居のような場合は熱中症のリスクが特に高いことをあらかじめ認識していくことが大切です。

特に冬場だけ頻尿の治療がされているような方もいますので、暖かくなって症状が改善すれば、定期的に投薬を見直すことも大切です。

 

在宅ならではの工夫・注意点 熱中症の分類

熱中症についてはいくつか分類がありますが、日本救急医学会より熱中症診療ガイドライン2015が発行されていますので、参考にされるといいと思います。その中では、熱中症は下記のようにI度・Ⅱ度・Ⅲ度に分けられています。

 

熱中症の分類(参考:日本救急医学会熱中症分類2015)

・I度(軽度):めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)を認めるものの、この段階ではまだ意識障害を認めません。この段階では、冷所で安静にし、体表を冷却し、水分とナトリウムの補給を行うことで多くは対処可能です。必要に応じて経口補水液などを用います。

 

・II度(中等度):頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感に加えて、集中力や判断力の低下が見られます。この段階では十分な経口摂取が難しい場合もあり、特に訪問診療を受けているような高齢者の場合は、点滴による水分・ナトリウムの補給が行われるケースが多いでしょう。

 

・III度(重度):発汗する水分が枯渇し,皮膚は乾燥します。発汗がなくなることで体温調節ができなくなり、深部体温39℃以上の高体温をきたします。意識障害、けいれんなどの様々な中枢神経障害が認められ、さらに呼吸・循環不全、肝・腎機能障害、DICなどの多臓器機能不全におちいると、死亡することもあります。

 

この中で、留意すべき点としては、いわゆる熱射病という、重症な熱中症における3主徴である「意識障害・40℃以上・発汗停止」に固執せず、暑熱環境にいたというエピソードがあった後に体調不良があるようなら、必ず熱中症の可能性があることを念頭におく、ということです。

各重症度において、すべての症状が必ずあらわれるというものではありませんので、その点を注意する必要があります。

 

また、Ⅱ度とⅢ度を見分けるには基本的に採血を要しますので、特に在宅医療において、多少でも意識障害が疑われ、かつ即日採血結果を確認することが難しいような場合は、無理に在宅で完結しようとせず、入院を検討するのが無難かもしれません。

熱中症は重症度を見誤りやすい疾患の1つですので、注意が必要です。

 

訪問看護師や他職種にお願いしたいこと

熱中症による死亡を防ぐには、何よりも予防が大切です。

「高齢女性」「糖尿病・高血圧」「認知機能低下・精神疾患」「独居」などのリスクが高い高齢者に際しては、梅雨を迎える前にあらかじめご家族と熱中症の対策について話し合っておくといいでしょう。

 

熱中症は、「ちょっとだるい」「少し立ちくらみがする」という、一見すると軽い体調不良のような症状から、急に意識障害が出て重症化してしまうことがあります。

訪問時に、室内環境が高温多湿になっていて、冷房や除湿機能を使用していないようであれば、夜の汗の具合を聞いたり、冷房器具の使用の有無を聞いたりすることが大切です

 

特に夜間は冷房をoffにする高齢者は多いですが、弱めに冷房をかけておいた方がいい場合もあり、場合によってはそのように勧めてあげるのもよいでしょう。

 

また、医療者でも、とにかく水を飲めば熱中症にならないと考えている方がいますが、それでは不十分な場合が多くあります。

熱中症になるケースで脱水が病態に関与していることはしばしばありますが、熱中症とはその名の通り、熱が主な原因となって起こる病態です。

 

「脱水を防ぐこと」も当然大切ではありますが、「暑熱環境を避けること」の方が大切です

自宅で暮らす環境を調整することは、訪問看護・介護に携わる方が介入する余地の大きい部分ですので、ぜひ一度「熱中症予防」という観点で利用者さんの生活環境を評価してみましょう。

 

まとめ

熱中症は、いつのまにか発症し、一定以上進行してからでは治療が難しいことが少なくないため、予防することがとにかく大切です。熱中症で搬送される多くのケースでは、生活環境を調整することで予防できる可能性があります。利用者さんの生活環境を直接見ることができる訪問医療の真価が問われる分野でもありますので、これから本格的に暑い時期がくる前にしっかり対策を考えていきましょう。

 

参考:

日本救急医学会 熱中症診療ガイドライン2015

環境省熱中症予防情報サイト

横田裕行,三宅康史(2016)「熱中症全国調査からみた高齢社会の影 ~日本救急医学会による全国調査から~」『日本交通科学学会誌』15(2),p.3-8,日本交通科学学会.

芳田哲也(2015)「日本における熱中症予防研究」『日本生気象学会雑誌』52(2),p.97-104,日本生気象学会.

阿南英明(2013)「環境性体温異常偶発低体温症,熱中症-」『日本内科学会雑誌』102(1),p.168-173,日本内科学会.

 

writer
しゅうぴん先生

普段は急性期病院で医師として勤務しながら、定期的に訪問診療も行い、最後まで患者さんに寄りそう医療を行っています。
また、正しい医療情報の普及を行う活動をライフワークとし、昼夜問わず精力的に活動しています。

 

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