誤嚥性肺炎とは―予防のポイントは「口腔ケア」

日本人の死因の第5位である肺炎。そして、肺炎で亡くなる方の98%は高齢者であるといわれています。なぜ大多数が高齢者なのでしょうか。それは、加齢や基礎疾患によって、食べ物をうまく飲み込めず、飲食物や唾液などが誤って気管に入り込んでしまう「誤嚥」が起きやすいことが背景にあります。今回は、誤嚥によって引き起こされる「誤嚥性肺炎」を解説します。

誤嚥性肺炎とは

食べ物を飲み込むとき、食道ではなく誤って気管の方に食べ物が入り込む状態を「誤嚥」といいます。

通常食べ物を飲み込むときに、誤嚥が起こらないよう二つの防御反応が備わっています。一つ目は、気管に喉頭蓋というふたをすることで、食べ物が入り込むのを防ぐ「嚥下反射」。
二つ目は、食べ物が気管に入りそうになったときに、むせることで外に出そうとする「咳反射」です。

しかし、これらの防御反応がうまく機能しなくなると、飲食物や唾液、胃の内容物などを誤嚥してしまい、細菌が発生し肺が炎症を起こしてしまいます。
このように、誤嚥によって引き起こされる肺炎を「誤嚥性肺炎」といいます。

なぜ高齢者には誤嚥性肺炎が起こりやすい?

誤嚥性肺炎は、なぜ高齢者に発症しやすいのでしょうか。次の4点が要因として挙げられます。

1.嚥下障害

食べ物を認識してから、口を経由して胃の中へ送り込む「嚥下」は、次の一連の動作を経ています。

<摂食嚥下の5期>

①先行期:目で見る、匂い、触れて感じることによって食べ物を認識します。

②準備期:その食べ物を口から入れ、咀嚼します。

③口腔期:口の中で食べ物を咀嚼し、唾液と混ぜて小さなかたまりを作り、舌を使ってのどの奥に送り込みます。

④咽頭期:食事を飲み込みます。この瞬間、反射によって気管にふた(喉頭蓋)が閉まり、食べ物のかたまりが食道に送り込まれます。ここがうまくいかないと、誤嚥につながります。

⑤食道期:食物を食道から胃に送り出します。

これらの動作にかかわる器官が、加齢や疾患によってうまく機能しなくなり、食べ物を飲み込みづらくなる状態を「嚥下障害」といいます。

高齢者の場合、加齢だけでなく、脳卒中や筋ジストロフィー、パーキンソン病などの嚥下障害につながりやすい基礎疾患を抱えているケースが多くみられます。これらの疾患によって脳や神経が障害を受けると、嚥下反射が正常に機能しない、舌が動きづらい、食べ物と認識できないといった機能不全が起こり、食べ物を飲み込みづらくなってしまいます。

また、服用している薬によっては、唾液分泌を抑制したり(抗ヒスタミン薬、抗コリン薬など)、嚥下作用を抑制したり(抗てんかん薬、抗精神薬など)する作用があるものもあり、誤嚥の要因となる場合もあります。

2.咳反射が弱まっている

誤嚥には、食事中などに起き、咳反射によりむせることで気道へ入り込むことを防ぐ「顕性誤嚥」と、少量の唾液や食物がむせることなく、気管に流れ込んでしまう「不顕性誤嚥」の二種類があります。

誤嚥性肺炎を引き起こすのは、主に不顕性誤嚥です。
本来、気管に異物が入り込みそうになっても、咳反射によって吐き出すことができます。
しかし、咳反射が弱まると、夜眠っている間や食事中に、むせることなく無自覚のまま誤嚥してしまうのです。
これが肺炎を引き起こす原因となります。

3.口腔内が清潔に保たれていない

高齢者の口腔はトラブルを抱えやすい状態になっています。
まず、唾液の分泌量が減ることにより、歯の表面や粘膜についた汚れを唾液で落とし、清潔な状態を保つ「自浄作用」が低下し、菌が繁殖しやすい状態になっています。
また、口の中や義歯、入れ歯を自分で掃除することが難しくなることから、汚れもたまりやすくなります。

口の中の汚れが堆積してできた歯垢(デンタルプラーク)には、1グラム当たり1000億個、500種類の細菌が含まれているといわれています。
これらの細菌が誤嚥によって、気管に流れ込むことも誤嚥性肺炎を引き起こす要因となります。

4.体の抵抗力が低下している

高齢者は、加齢のほか、糖尿病などの基礎疾患によって体の抵抗力が低下していることが多く、肺炎に感染しやすい状態となっています。

誤嚥性肺炎の症状と治療

誤嚥性肺炎にかかるとどのような症状が現れるのでしょうか。

症状については、発熱、咳、たんが出るといった通常の肺炎と同様のものがみられます。
ただし、高齢者の場合、38℃以上の高熱など、一般的な肺炎のようなはっきりとした症状が現れず、重症化するまで気づかれないことも多くあります。
なんとなく元気がない、食欲がない、だるい、微熱があるといった、些細な症状が誤嚥性肺炎の初期症状である可能性があるため、周囲の方が注意深く見守ることが大切です。
少しでも異常を感じたら、かかりつけ医に相談するようにしましょう。

治療については、抗菌薬による薬物治療を主に行います。
初期段階であれば、内服薬のみで治療でき、在宅での対応も可能です。
全身状態や呼吸状態が悪い場合は、入院して治療します。

誤嚥性肺炎の予防策とは

誤嚥性肺炎の予防においては、次の2つのケアがポイントとなります。

口腔ケアを行う

誤嚥性肺炎の原因となる細菌の多くは歯周病菌といわれており、細菌の繁殖を防ぐために、口腔内を清潔に保つことが大切になります。
就寝時の誤嚥が肺炎につながることから、毎食後のブラッシングに加えて、寝る前にケアを行うことも有効です。

また、歯科医師、歯科衛生士の定期的な診察・指導を受けることで口腔内の細菌数が1000分の1程度まで減少することや、誤嚥性肺炎の発症率が低くなることが明らかになっており、専門家によるケアも取り入れることも必要です。

正しい食事介助を行う

誤嚥性肺炎の予防には、食事をうまく飲み込めるよう、適切な介助を行うことも重要です。

まず、食事を開始する前に嚥下体操を行い、食事の際に働く口や舌などの筋肉をほぐすなどの準備を行います。
唾液を出すために、口の周りをマッサージすることも効果的です。

食事の際には、食べる姿勢に注意する必要があります。
椅子の場合は深く腰掛ける、ベッドの場合は角度を30~60度にし、頭を枕で支えましょう。

また、食事の形態についても配慮する必要があります。
さらさらの水分、こんにゃくなど弾力性のあるもの、ひき肉などぼろぼろになりやすいもの、ゆで卵のようなぱさぱさした食材など、口の中で食塊を作りづらい食材は嚥下が難しいため、とろみをつけるなど飲み込みやすくする工夫が必要です。
利用者の状況にあわせて、ゼリー状、ペースト状、ソフト食など、嚥下しやすいように調整した形態を導入することも有効ですので、医師や歯科医師、栄養士と相談しながら、適切な方法を検討するようにしましょう。

まとめ

高齢者の死因の多くを占める肺炎。特に誤嚥性肺炎については、症状がわかりにくいケースも多く、周囲が注意して見守る必要があります。そして、大切なのは「口腔ケア」。要介護者に歯科医師、歯科衛生士などが口腔ケアを定期的に行うことによって、肺炎の発症率が40%引き下がるという研究結果も出ています。「食事の介助」をあわせて、誤嚥性肺炎対策にしっかり取り組みましょう。

<参考文献など>

医療法人社団悠翔会編著(2012)『家族のための在宅医療実践ガイドブック』佐々木淳監修, 幻冬舎.

内田貞輔(2017)『家族のための「在宅医療」読本』,幻冬舎.

米山 武義, 鴨田 博司(2001)「口腔ケアと誤嚥性肺炎予防」

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsg1987/16/1/16_3/_pdf/-char/ja

厚生労働省:平成29年(2017)人口動態統計(確定数)の概況

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei17/index.html

一般社団法人日本呼吸器学会:誤嚥性肺炎

http://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=11

健康長寿ネット:嚥下性肺疾患

https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/engeseihaishikkan/index.html

肺炎予防.jp

https://www.haien-yobou.jp/

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