注目の新大綱を解説!認知症施策推進大綱まとめ(後半)

6月18日に閣議決定された「認知症施策推進大綱」。2017年に策定された「新オレンジプラン」の後継となる新大綱では、これまでの「共生」に関する施策に加え、認知症「予防」に関する内容が大きく拡充されました。今回は、新大綱の後半部分について解説します。

注目の新大綱を解説!認知症施策推進大綱まとめ(前編)|在宅医療の基礎知識

2019.07.15

認知症施策推進大綱―5つの柱

今回の大綱は、認知症の人との「共生」と「予防」の二つを両輪として、施策を推進することがポイントとなります。

新オレンジプランでは、認知症の人が住み慣れた地域で自分らしく生活し続けられるよう、社会全体で高齢者を支える「共生」に重点が置かれてきましたが、新大綱では認知症の「予防」についての具体的施策が提示されました。

これらの基本的な考えのもと、次の5本柱の施策を実施していきます。

  1. 普及啓発・本人発信支援
  2. 予防
  3. 医療・ケア・介護サービス・介護者への支援
  4. 認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援
  5. 研究開発・産業促進・国際展開

今回は後編として、3~5についてポイントを解説します。

3.医療・ケア・介護サービス・介護者への支援

3番目の柱は、医療・介護スタッフや家族介護者など、認知症の人をサポートする周囲が取り組むべき事項をまとめたものとなっています。

(1)早期発見・早期対応、医療体制の整備

<Point>早期発見・対応に必要な「関係機関の連携」

認知症の早期発見・対応において、大切なことは「関係機関の密な連携」。地域包括支援センター、かかりつけ医などの地域機関と、認知症疾患医療センターなどの専門機関との連携が重要であるほか、スーパーマーケットなど民間との連携の必要性についても言及されています。
また、早期発見・対応に加え、診断後の本人・家族などに対する支援につなげることが求められています。

関連機関ごとの役割と、今後の方針は次の通りです。

  • 地域包括支援センター

地域の高齢者の保健医療・介護に関する相談窓口であり、入口となる存在。新大綱では、医療・介護・福祉などの関係機関に加えて、地域のスーパーマーケットや金融機関など民間企業などとの連携も重要であることが言及されました。
例えば、スーパーマーケットと連携することで、認知症の疑いがある高齢者がお客さんとして来店した場合、地域包括支援センターのサポートにお店を通してつなぐことが可能になります。

  • 認知症地域支援推進員

地域の支援機関間の連携づくりのほか、認知症の人とその家族向けの支援として、認知症カフェの実施、相談などに取り組みます。
新オレンジプランで、全市町村への配置が数的目標として設けられていましたが、新大綱では、先進的な取り組み事例の収集と、横展開を行う方針であるとのことです。

  • かかりつけ医、認知症サポート医及び歯科医師、薬剤師、看護師など

かかりつけ医・歯科医・薬局は、認知症の早期発見・対応の役割を持つ存在。本人や家族が異常を感じているときには、適切な機関への相談を促す必要があります。

また、今回新たに、かかりつけ薬剤師・薬局が、かかりつけ医などと連携して高齢者のポリファーマシー対策に取り組むことを推進する記述が盛り込まれました。

  • 認知症初期集中支援チーム

複数の専門職が、認知症が疑われる人や認知症の人とその家族を訪問し、観察・評価を行った上で、家族支援等の初期の支援を包括的・集中的に行います。
新オレンジプランでの取り組みによってほぼすべての市町村に設置済みで、今後は先進的な活動事例を収集し全国に横展開する方針が示されました。

  • 認知症疾患医療センター

かかりつけ医や地域の相談拠点、その他専門医療機関の連携体制を構築するにあたって、司令塔機能を果たすべきである旨が明言されました。

(2)医療従事者等の認知症対応力向上の促進

新オレンジプランから引き続き、認知症の早期発見・早期対応、医療の提供などのための地域のネットワークの中で重要な役割を担う、かかりつけ医、歯科医師、薬剤師、看護師などに対する認知症対応力向上研修や、かかりつけ医を適切に支援する認知症サポート医を養成するための研修を実施することが盛り込まれました。 

また、新オレンジプランと同様に、研修受講者数が職種ごとに設けられていますが、かかりつけ医9万人、認知症サポート医1.6万人、歯科医師4万人など、新大綱の方が目標数値が高く設定されています。

(3)介護サービス基盤整備・介護人材確保・介護従事者の認知症対応力向上の促進

介護人材確保策として、介護従事者の処遇改善、就業促進、離職防止について新たに言及されました。
業務仕分け、元気高齢者の活躍、ロボット・センサー・ICTの活用による介護現場の業務改善や介護業界のイメージ改善について、先進的な取組を全国に普及・展開するとのことです。 

(4)医療・介護の手法の普及・開発

認知症の行動・心理症状(BPSD)の予防やリスク低減、現場におけるケア手法の標準化に向けた事例収集や、ビッグデータを活用した研究などを推進することが、新大綱で追記されました。

また、BPSD以外にも、認知症の人のリハビリテーションについても、認知症の生活機能の改善を目的とした認知症のリハビリ技法の開発、先進的な取組の実態調査などを実施するとのことです。

そして、人生の最終段階の意思決定について、2018年6月に策定された「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」の活用推進についても追加されています。

(5)認知症の人の介護者の負担軽減の推進

仕事と介護の両立を目指し「介護離職ゼロ」を実現するための普及啓発のほか、介護者の負担軽減策として、通所介護や訪問看護などの介護サービスや認知症カフェの利用を引き続き推進することが明言されました。

また、認知症の人やその家族の理解促進や心理的負担を軽減する手段として有効と考えられるのが、認知症疾患医療センター、介護サービス事業所などによる家族教室や家族同士のピア活動。これらの好事例を収集する取組も推進するとのことです。

主なKPI/目標

  • 認知症初期集中支援チームの先進的な活動事例集作成
  • 認知症疾患医療センターの設置数 全国で500カ所、二次医療圏ごとに1カ所以上(2020 年度末)
  • 医療従事者に対する認知症対応力向上研修受講者数

かかりつけ医 9万人

認知症サポート医 1.6万人

歯科医師 4万人

薬剤師 6万人

一般病院勤務の医療従事者 30万人

看護師等(病院勤務)4万人

看護師等(診療所・訪問看護ステーション・介護事業所等)実態把握を踏まえて検討

  • 介護人材確保の目標値(2025年度末に245万人確保)
  • 認知症リハビリテーションの事例収集及び効果検証  など

4.認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援

続いては、移動、消費、金融手続き、公共施設など、生活のあらゆる場面で、認知症になってからもできる限り住み慣れた地域で普通に暮らし続けていくために、障壁を減らしていくことを「認知症バリアフリー」とし、この実現に向けた取組を推進しています。

なお、認知症バリアフリーとは、公共交通機関や建物などハード面でのバリアフリー化のだけでなく、ソフト面での対応も必要となります。

今回内容が拡充されたものを中心に、ご紹介します。

(1)「認知症バリアフリー」の推進

<Point>移動手段の確保の推進

ハード面、ソフト面の両面からの、次のような対応が求められています。

  • ハード面:自分で車を運転できない人の交通手段確保。そのほかに、高齢化が進む中山間地域において、人流・物流を確保するため、自動運転移動サービスの実証・社会実装を推進するほか、高齢者・障害者をはじめとする誰もが安心して通行できる幅の広い歩道等の整備などを推進するとしています。
  • ソフト面:交通事業者に向けた、認知症の人に対する対応マニュアル作成の推進します。

<Point>交通安全の確保の推進

安全確保機能を有する自動車での運転に限り、高齢者が運転できる免許制度確立に向けた検討を実施します。

<Point>地域支援体制の強化

認知症カフェなど、地域資源を利用した取り組みを、認知症地域支援推進員が中心となって行うことを推進。認知症サポーターなどによる見守り活動を通して、地域の見守り体制を構築することを目指します。

認知症サポーターについては、量的な拡充だけでなく、ステップアップ研修を受けたサポーターで支援チームを作り、認知症の人やその家族を支援する仕組み(「チームオレンジ」)を地域ごとに構築することが新たに言及されました。

また、行方不明時については、厚生労働省の特設ホームページの活用のほか、ICTを活用した操作システムの普及を図るとしています。

<Point>認知症に関する企業の取組・商品開発の推進

企業向けの支援制度や、認知症の人に向けた商品の開発推進を行います。

まず、支援制度については「認知症バリアフリー宣言(仮称)」の運用を検討するほか、新たな認証制度の設定を検討することが盛り込まれています。

また、商品開発については、単なる認知症の人が使いやすい商品ではなく、認知症の人本人の意見を踏まえた商品の開発を支援するとしており、本人の意見を反映させる、参加を促す文言が新たに盛り込まれました。

金融商品として日常で使用する金銭を預貯金として後見人が管理し、通常使用しない分については信託銀行に信託する「後見制度支援信託」の活用推進などについても言及されています。

<Point>認知症に関する様々な民間保険の推進

公的な介護保険サービスだけではなく、認知症の発症に備える保険など民間の損害賠償保険の利用も促進するため、企業を支援することが明言されました。

(2)若年性認知症の人への支援

新オレンジプランで言及されていた、若年性認知症支援のハンドブックの配布、都道府県ごとの専門相談窓口の設置と相談窓口への若年性認知症支援コーディネーターの配置などの施策を引き続き推進します。 また、若年性認知症に対する今後の対策を検討するため、その実態把握と対応施策に関する調査研究を行うとしています。

(3)社会参加支援

認知症になっても、支えられる側としてだけでなく、支える側として社会参加できるような環境を作ることを推進。具体的には、介護予防にもつながる農業、商品の製造・販売、食堂の運営、地域活動やマルシェの開催などを推進します。

主なKPI/目標

  • バリアフリー法に基づく基本方針における整備目標の達成 (2020年度末)
  • 全市町村で、本人・家族のニーズと認知症サポーターを中心とした支援を繋ぐ仕組み(チームオレンジなど)を整備
  • 認知症バリアフリー宣言件数・認証制度応募件数・認証件数(認知症バリアフリー宣言、認証制度の仕組みの検討結果を踏まえて検討)
  • 本人の意見を踏まえた商品・サービスの登録件数(本人の意見を踏まえ開発された商品・サービスの登録制度に関する検討結果を踏まえて設定)
  • 認知症の発症に備える民間の認知症保険を販売している保険会社の数

5.研究開発・産業促進・国際展開

認知症については、いまだに発症や進行のメカニズムが明らかになっていないことから、引き続き、認知症発症や進行の仕組みの解明、予防法、診断法、治療法、リハビリテーション、介護モデル等の研究開発など、様々な病態やステージを対象に研究開発を進めることが盛り込まれました。新大綱では、認知症の予防法やケアに関する技術・サービス・機器等の検証と、評価指標の確立を図ることが特に注力すべき点として明言されていることがポイントです。

そして、認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデルなどの研究開発を推進するとし、これらの研究に取り組む研究機関については「日本医療研究開発機構(AMED)」が支援するとしています。また、これらに加えて、認知症の人や家族の生活の質を反映したアウトカム評価を含めた、認知症の人や家族の実態を把握するための調査、家族負担軽減に焦点をあてた地域での生活を支援するための研究なども行うとのことです。

さらに、AMEDが支援する研究として挙げられたのが、認知症の人の実態を調査する全国規模のコホート研究。認知症の発症と進行の経緯、危険因子、予防因子を明らかにするコホート研究(一万人コホート)を通して、定期的に住民追跡調査を行うとしています。また、この調査に、認知症発症前の人、軽度認知障害の人、認知症の人が研究や治験に簡単に参加登録できる仕組みを構築することが新たに触れられました。

主なKPI/目標

  • 認知症のバイオマーカーの開発・確立(POC取得3件以上)
  • 認知機能低下抑制のための技術・サービス・機器等の評価指標の確立
  • 日本発の認知症の疾患修飾薬候補の治験開始
  • 認知症の予防・治療法開発に資するデータベースの構築と実用化
  • 薬剤治験に即刻対応できるコホートを構築

まとめ

「共生」と「予防」が基本的な考えとなる「認知症施策推進大綱」。後編では、医療・介護従事者や家族への支援策や、「認知症バリアフリー」の実現に向けた方策が示されました。新オレンジプランのアップグレード版である新大綱によって、認知症の「予防」がどのように実現するのか、注視する必要があるといえるでしょう。

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