緩和ケアと「痛み」-がん性疼痛のケア

がんが進行すると、痛み(疼痛)、呼吸困難、倦怠感など様々な身体症状が現れます。特に痛みについては、比較的初期の段階から現れることに加え、7割程度の患者が経験するといわれており、多くのがん患者を苦しめる存在です。しかし、鎮痛薬による適切なケアを行うことで、8割程度の痛みが緩和可能ともいわれていることから、患者のQOL向上において、「痛みのケア」は避けては通れないものとなっています。今回はがん性疼痛の緩和ケアについて、ご紹介します。

「緩和ケア=終末期ケア」ではありません!緩和ケアの基礎知識

2019年6月11日

緩和ケアとは

緩和ケアとは、がんなどの生命を脅かす病による、患者とその家族の心と体の痛みを和らげるケアのことを指します。
苦痛を取り除くことで、患者とその家族のQOL(Quality of Life)を向上させることが目的で、終末期に限らず、治療の早期段階から導入すべきとされています。

世界保健機関(WHO)が2002年に提唱した定義では、次のようなケアとされています。

<WHOによる緩和ケアの定義>

生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者と家族の痛み、その他の身体的、心理社会的、スピリチュアルな問題を早期に同定し適切に評価し対応することを通して、苦痛(suffering)を予防し緩和することにより、患者と家族のQuality of Lifeを改善する取り組み

がんによる痛みのケアにおいて、ポイントとなるのは「WHO方式がん疼痛治療法」。
1986年に作成され、全世界で出版、翻訳されており、70~80%以上の鎮痛効果が得られているとの調査結果が出ています。

その中で、特に注目すべき「3段階除痛ラダー」と「鎮痛薬使用の5原則」を解説します。

痛みと薬剤選択の関連性-WHOの3段階除痛ラダー

WHOの3段階除痛ラダーは、投与薬剤を痛みの段階に合わせて選択することを示した治療法です。
現在、この指標に沿って、薬剤を選択することが一般的になっています。

軽い痛みには、解熱鎮痛薬として一般的に使われている非オピオイド鎮痛薬を用い、中程度の痛みにはこれに加えて弱オピオイド鎮痛薬を、強い痛みについては強オピオイド鎮痛薬と呼ばれる麻薬性鎮痛薬を用います。

【WHOの3段階除痛ラダー】

第一段階:非オピオイド鎮痛薬+鎮痛補助薬

第二段階:弱オピオイド(軽度から中程度の強さの痛みに用いる)+非オピオイド鎮痛薬+鎮痛補助薬

第三段階:強オピオイド(中程度から強度の強さの痛みに用いる)+非オピオイド鎮痛薬+鎮痛補助薬

【鎮痛薬の種類】

非オピオイド鎮痛薬:アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、インドメタシンなど

弱オピオイド鎮痛薬:コデインなど

強オピオイド鎮痛薬:モルヒネなど

鎮痛補助薬:痛み止めとしての通常用いられることはありませんが、鎮痛薬との併用によって効果を高めたり、神経痛へなど、特定の状況下で鎮痛効果が現れたりする薬剤。抗うつ薬や抗てんかん薬などが該当します。

〇痛みの段階と薬剤の選択

<第一段階>

軽度の痛みの場合、非オピオイド鎮痛薬(非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)またはアセトアミノフェン)をまず投与し、効果が不十分な場合は標準投与量以上の増量はせずに、オピオイドを追加します。
必要に応じて、鎮痛補助薬を併用します。

<第二段階>

非オピオイド鎮痛薬で効果が不十分な場合や、痛みの程度が軽度~中程度の場合は、弱オピオイド鎮痛薬を追加。必要に応じて、鎮痛補助薬を併用します。

<第三段階>

第二段階でも効果が不十分だった場合や、痛みの程度が中等度~高度の場合は、強オピオイド鎮痛薬を投与します。
非オピオイド鎮痛薬を可能な限り併用することが望ましく、必要に応じて鎮痛補助薬を併用します。強い痛みの場合には、軽度から中等度の痛みに用いるオピオイドを使用せずに、中等度から強度の痛みに用いるオピオイドから投与します。

麻薬性鎮痛薬の安全性

医療用麻薬というと、依存性、副作用などの面で「怖い」と思われる患者さんもいるでしょう。
しかし、麻薬性鎮痛薬を「痛み」に対して使用した場合、薬物依存は起きないことが研究により明らかになっているほか、他の鎮痛薬と比較して、出血性胃潰瘍などの重篤な副作用の発生頻度が低いことがわかっています。
医師の管理のもと、適切に使用する場合には安全な薬であるといえます。

しかし、眠気、吐き気、便秘などの副作用は高頻度で現れることもわかっています。
眠気、吐き気については、投与開始からしばらくすると耐性がつくとされていますが、症状がひどい場合には吐き気止めを併用することが有効です。
便秘については、投与回数を重ねても耐性がほとんどつかないため、下剤を継続的に併用することが必要です。

がん性疼痛、薬物治療の原則―鎮痛薬使用の5原則

続いて、がん疼痛のケアとして、薬物療法を行う場合に推奨されているのがWHOが示した「鎮痛薬使用の5原則」です。

● 鎮痛薬使用の5原則

1. 経口的に(by mouth)

2. 時刻を決めて規則正しく(by the clock)

3. 除痛ラダーにそって効力の順に(by the ladder)

4. 患者ごとの個別的な量で(for the individual)

5. その上で細かい配慮を(with attention to detail)

それぞれ詳しくみてみましょう。

1.経口的に(by mouth)

用量を調整しやすく、血中濃度が安定しやすい経口投与が望ましいとされていますが、吐き気や嚥下困難などによって経口投与が困難な患者には、坐薬、貼付剤など、個々の患者に合った投与方法を検討することが必要です。

2.時刻を決めて規則正しく(by the clock)

通常、がんによる痛みは持続的で、時間を決めて規則的に投与することが必要です。
痛みを感じたら投与、といった頓服服用はしません。

しかし、持続痛に加えて突出痛がある場合は、オピオイド鎮静剤を「レスキュー薬」として追加で投与します。

持続痛:一日を通して、一定の強さで持続する痛み。

突出痛:普段の痛みより強い痛みが、急に表れる状態。一過性の痛み。

3.除痛ラダーにそって効力の順に(by the ladder)

がんによる痛みの治療については先述の「WHOの3段階除痛ラダー」を用い、適切な薬剤を選択します。

4.患者ごとの個別的な量で(for the individual)

鎮痛効果と副作用のバランスを見ながら、適切な量に調整する必要があります。また、非オピオイド鎮痛薬や弱オピオイド鎮痛薬については、一定以上の投与量を超えると、ほとんど効果が変わらなくなる「天井効果」がありますが、中等度から強度の痛みに用いる強オピオイドには「常用量」や「投与量の上限」がないため注意が必要です。
投与量を必要以上に多くすると、眠気などの副作用が強く出てしまうため、注意が必要です。

5.その上で細かい配慮を(with attention to detail)

オピオイド鎮痛薬については、副作用、薬物依存などの観点から、避けるべきものと誤解している患者さんいらっしゃいます。
作用機序や副作用についてきちんと説明し、誤解を解く必要があります。
また、時間を決めて規則正しく服薬することや、副作用の予防と対策についての説明も必要でしょう。
急な痛みがあったときには、定期投与のほかにレスキュー薬を我慢せずに使うことについて、きちんと指示することも大切です。

そして、痛みの程度や原因などに変化がないか、常に観察し、必要に応じて鎮痛薬の追加や変更を行うといった配慮も求められます。

まとめ

多くのがん患者を苦しめる痛み。しかし、鎮痛薬を痛みに合わせて適切に使用することで、その大部分は緩和できるといわれており、普段通りの生活を送れるほどに改善する事例も多くあります。そのためには、患者さんの苦痛や痛みの程度、変化を医療従事者がよく観察すること。そして、医療用麻薬への患者さんの理解を促す手助けをすることが大切です。

<参考文献など>

日本緩和医療学会:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン

https://www.jspm.ne.jp/guidelines/pain/2014/pdf/pain2014.pdf

日本医師会:がん緩和ケアガイドブック

http://dl.med.or.jp/dl-med/etc/cancer/cancer_care_kaitei.pdf

浜 善久(2007)「緩和ケアの理念とがん性疼痛の特徴」

https://core.ac.uk/download/pdf/148769459.pdf

高知医療センター:がん性疼痛治療マニュアル

https://www2.khsc.or.jp/gan_center/pdf/gansei_tufutiryo.pdf

内田貞輔(2017)『家族のための「在宅医療」読本』,幻冬舎.


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