私の訪問看護事例/”家”ってすごい!在宅の力を教えてくれた75歳の寝たきり患者

<患者プロフィール>

年齢:75
性別:女性
介護サービスの利用状況:訪問診療(月1回)、訪問入浴(週2回)、訪問看護(週2回)、福祉用具(ベッド、エアマット、車椅子)

入院をすると、その環境の変化だけでなく、安静のために活動が極端に減ることから”廃用症候群”に至る方がよくみられます。

そうならないようにと、出来る限り病院も熱心に早期退院に向けて取り組んでいますが、長期に渡って治療が必要な方には、やはり限界が…。
ところが、そんな廃用の進んだ患者さんでも、自宅に戻ってみると入院中には見られなかったような姿を見せてくれることがあります。

今回は、そんな不思議な「在宅の力」を訪問看護始めたての私に教えて下さった、ある患者さんの訪問看護事例をご紹介します。

第一印象は”無口・無表情・無気力”!?

消化器疾患で、2ヶ月間入院治療をされていたKさん。
入院中、食事が再開されては誤嚥を繰り返し、すっかり入院期間が延びてしまっていました。

嚥下リハビリを続け、ようやく食事が安全にできるようになり、状態が安定したところで退院となったのですが、まだまだ摂取量も不安定…。
自宅に帰ってからも状態観察をということで、訪問看護が導入されることなりました。

退院前に開かれたカンファレンスで初めてお会いしたKさんの印象は、ずばり「無口・無表情・無気力」。話しかけても応答はなく、リハビリに対しても意欲が感じられません。
退院が決まっても、あまり喜んだ様子もみられませんでした。

先行きに不安を感じつつ迎えた退院後、初めての訪問日。
「こんにちは・・・。」
恐る恐る話しかけても反応なし。視線は合わせてくれますが、一言も発して下さらないまま訪問を終えました。

とにかく栄養確保と褥瘡予防!から始まった看護計画

病棟でのリハビリも見学させていただいていましたが、Kさんは全くやる気がなく、ほとんど刺激しないとずっと目を閉じている状態でした。
要介護4で自分で動かれることはほとんどありません。お嫁さんが元看護職ということで、介護方法についても詳しく、1時間かかる食事介助も普段の体位変換などもすべてお嫁さんがされました。
食事がしっかり取れるようになったら、覚醒を促すためにもデイサービスの利用をと話してはいましたが、当初はとてもそこまで望めそうにない状況でした。(ご本人のやる気が・・・)

何をするにも「眠い…。いらん…。」と微かな声で訴えるKさん。体動もなく、全身の緊張は高まり、常に手や肩関節の痛みを訴えておられました。
食事は病院と同じペースト食でしたが、食欲がなく、家に帰ってからも摂取量の少ない日が続きました。このままでは間違いなく脱水や低栄養をきたし、褥瘡を形成してしまう・・・。

当面の優先目標としては夏を目前にして「栄養の確保と褥瘡を予防すること」でした。
そこで、Kさんに対し行ったのは以下の対策。

対策1 食事に関する工夫ー覚醒を促しつつ、Kさんが食べたいと思えるようなメニューを探す

実際のKさんの嚥下機能を見てみると、しっかりと車椅子に移乗し座位を保てばとろみがなくても嚥下できると解りました。そのため、お嫁さんに注意してもらいながら、できるだけ普通食に形を近づけ、家の”なじみの味”で食欲を出してもらえるようすすめていきました。
(実際、そうめんや煮物、なんでも食べさせてみるお嫁さんの積極的なチャレンジが功を奏しました!)

処置2 排泄リズムを整えるー頑固な便秘症を改善し、食欲改善へ

活動も水分も不足し、寝たきりのために自力での排便が難しくなってしまったKさん。
定期的に排便できるよう、訪問時に腹部マッサージと摘便、下剤の調整をして排便コントロールをはかりました。

対策3 褥瘡・拘縮予防のためのポジショニングと皮膚観察ー体圧の適切な分散×関節の拘縮を防ぐポジショニングの指導と皮膚の保護

左側臥位が得手で、左ばかり向くKさん。当然、左の腸骨部は赤くなり、いつもベッド柵を持ち手を握りしめていたため肩にも力が入り疼痛がありました。
そのため、クッションで側臥位の角度を緩やかにし、肩関節の可動域を制限しないようタオル等で調整。また、発赤がみられた部位や、その他にも圧がかかりやすそうな足の外踝部、仙骨部や背部などの骨突出部には適宜ワセリンを塗布し、手も爪が食い込まないよう緊張緩和のためマッサージと保護を続けました。

また訪問入浴の方にも同様の観察とケアをお願いしました。

これぞ在宅の力!?ある日突然Kさんが…

訪問を続けるうち、Kさんの性格やこれまでの半生が少しずつ見えてくると、だんだんKさんがどんな話が好きなのか、どんなことに興味があるかが掴めてきました。
といっても、ケアやリハビリにも「面倒くさい…」というのは変わりません。

が、ある日突然、お嫁さんから「試しに(Kさんに)お箸もたせてみたら、自分でおかず取れたんです!昨日はそうめん好きっていうから、1束茹でたらお箸で上手に全部食べて。食べ過ぎやって主人が怒ったら、全然足りん!!!て言い返したんですよ!」とのこと。

びっくりして、Kさんに本当?!と問うと、「はははっ。」と声を立てて満面の笑み。
そうめん好きなんですか?と問うと、「ほうや。まだ足りん。」と初めて会話が成立しました。
(Kさん、ご飯のことならこんなにしゃべれるんだね。笑)

誤嚥が、栄養量が…と退院前から生命の危機として危惧していたことが、Kさんの食欲ひとつで解決しました。これは、間違いなくお嫁さんの料理が美味しかったからでしょう。
それ以降、お嫁さんは遠慮なく以前と同じ食事を作り、Kさんも自分でお箸を持ち、家族と一緒に食卓についておかずを取り合うようになったそうです。

食事が安定したおかげで栄養確保の問題は解決し、褥瘡予防にも大きく役立ちました。
また、お箸を使うことで腕を動かすことも増え、手指の動きにくさを気にされるようになったこともあり、それ以降はリハビリに対する意識も少しずつ…本当に少しずつですが前向きになっていかれたのでした。

【まとめ】住み慣れた「家」での生活は利用者様にとって一番の特効薬

Kさんの事例から、どんな専門的な介入よりも、なにより住み慣れた環境に早く戻ることが、もとのその人らしい生活を取り戻す一番の特効薬になるということを学びました。

入院中にできなくなったからといって、自宅でもできないと決めてかかるのではなく、本来の力を信じてその人が行動できるようチャンスと環境を整えることが、一番大切なケアになるのだと。
若干恥ずかしながら、今回の事例では、看護師として何をした、ということは一切ありません。
が、環境というものが持つ力の凄さ、「家」というものの凄さを、少しでも多くの方に感じていただければと思います。

 

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