グリーフケアとは。遺族のQOLを左右する悲嘆のケア|在宅医療の基礎知識

「グリーフ(grief)」とは「悲嘆」のこと。

グリーフケアとは、死別を体験し、グリーフを抱えた遺族に、寄り添い、ありのままに受け入れて、その方々が立ち直り、自立し、成長し、そして希望を持つことができるように支援することです。

日本では、2000年代に入ってからグリーフケアが広く認知されはじめ、2014年の厚生労働省の報告では、介護老人福祉施設では約6割、病院では約3割がグリーフケアの体制が整備されていることが明らかになりました(*1)。

今回は、在宅看取りと共に注目されつつあるグリーフケアについて紹介します。

グリーフケアとは|在宅医療の基礎知識

グリーフケアとは、大切な人との死別に直面した遺族に寄り添い、支援するケアのこと。

人は誰しも大切な誰かー親や配偶者、子どもや孫、友人などを失ったとき、その「喪失」の悲しみを乗り越え、少しずつ目の前にある現実を受け入れていきます。

死別による悲しみを受け入れるまでの過程で、心身に不調を感じるのは自然な反応ですが、このプロセスがうまくいかず、悲嘆に対する心身の反応の度合いが強く、長期化してしまう「複雑性悲嘆」に陥ってしまうケースがみられます。

複雑性悲嘆は、高血圧やがん、心疾患のほか、自殺のリスクを高めるという研究結果も報告されています。

また、不眠や抑うつ状態などが続いて精神疾患に移行してしまうケースや、あまりに大きなストレスにPTSDを発症してしまうケースもみられます。

悲嘆の受け入れ、立ち直るまでのプロセス(グリーフワーク)が適切にすすめられるよう、遺族がありのままに感情を表現できるよう促し、その悲しみ・辛さに寄り添い共感すること。そして遺族が新たな生活に適応していけるように促す、それがグリーフケアの本質です。

グリーフケアのはじまりと発展

欧米では古くからグリーフケアが実践されており、1970年頃には既に研究が盛んに行われていました。
一方、日本にグリーフケアの考えが芽生えたのは、1990年代に入ってからのこと。

核家族化が進んだ日本では、自宅ではなく病院で亡くなる方が増えています。
その結果、自宅で家族を看取る機会が減り、いざ大切な人との死別に直面したときにどうしたらいいかわからない…という状況が生じていました。

その後、欧米の影響で終末期医療の在り方や尊厳死についての関心が高まり、日本で最初のホスピスケア病床(淀川キリスト教病院)誕生。
ホスピスや緩和ケア病棟が各地へ広がっていきました。

そして、グリーフケアについても、2005年に起きたJR西日本の福知山線脱線事故をきっかけに広く知られることとなりました。
死にゆく人へのケアが進められるとともに、遺族ら「送る側」に対するケアの重要性も高まっていったのです。

グリーフケアの「4つのサポート」とは

実際の現場で行われているグリーフケアは心理カウンセラー・看護師・医師といった専門職だけでなく、同じような体験をした遺族、そして時には牧師やチャプレン、僧侶などの宗教家によっても行われています。

大きく分けて次の4つのサポートが行われます。

 

①情緒的サポート

心の面でのサポート。遺族の声に耳を傾け、心に寄り添うケアを行う。

 

②道具的サポート

経済上、人間関係上のトラブルなど、より実際的な問題へのサポート。

 

③情報的サポート

悲嘆についての反応などの知識や、自助グループ(サポートグループ)などのケアの場に関する情報を提供することによるサポート。

 

④治療的介入

複雑性悲嘆や、心身に表れた不調に対して、医療機関などによる専門的な治療を行うこと。

 

遺族に対するケア、というと情緒面でのサポートが真っ先に浮かびますね。
実際に、全国の訪問看護事業者に対する調査(296事業者が回答)では、実施している遺族へのケアについて、「ねぎらいの言葉をかける(96.9%)」、「家族の想いを傾聴する(95.9%)」、「故人との思い出を共有する(90.3%)」など、情緒的なサポートが上位を占めていることがわかっています(*2)。

現代社会では悲しみや苦しみを人前で表すことが難しく、辛さを抱え込んでしまう遺族の方も多いはずです。
大切な人を失い、悲しみや罪悪感、孤独を抱えている遺族の声に耳を傾け、共感する。励ましたり、気持ちを抑え込むことを促したりしてはいけません。
無理に気持ちを抑える必要はないと、周囲が寄り添う姿勢が求められます。

 

一方で、配偶者との死別にあたって感じたストレスについて2001年に実施された調査によると、約6割が「死別後の雑事(死別後の手続きや行事など)」に、3割以上が「経済的問題」、「日常生活の困難(家事や近所づきあいなど)」、「周囲との人間関係」に困難を感じたと回答しています(*3)。

情緒面はもちろんのこと、生活していくうえで乗り越えなければならない、実生活上の課題についてのサポートも大切です。

グリーフケアの具体的なケア内容

医療・看護・介護の現場で行われているグリーフケアとは、具体的にどのようなものになるのでしょうか。

 

① 遺族訪問

最も多く実施されているのが遺族訪問。訪問看護事業者の9割以上が実施していると回答しています(*2)。

 

②来所・電話相談

 

③カードや花束をおくる

 

④セルフヘルプグループ・自助グループ

同じように死別を経験をした参加者同士で支え合うグループ。
参加者が組織、運営するセルフヘルプグループと、精神保健の専門家などが組織、運営する自助グループがあります。
ピアカウンセリングの場となり、悲しみの表出や心の整理を助けてくれます。

 

なお、グリーフケアというと「死別後」のケアだけだと思われがちですが、終末期のように死が近いことを予見できる場合、生前からの関わりも大切なグリーフケアになります。

 

具体的には、大切な家族の死を受け止められるよう、病状や死亡時や看取り時の体制などを説明するほか、家族が納得の納得のいく医療や看取りを行えるよう、専門職との話し合いの場を設けるといったサポートが行われます。

 

また、生前のグリーフケアの場合、家族の心理状態、死生観を把握し、適切なサポートを行うことが必要です。例えば、離れて暮らしていた場合には簡単な介護や身の回りのお世話をしてもらったり、家族内で話し合う機会を設けコミュニケーションを促したりすることもあります。

 

このように、死にゆく方と生前からしっかりと向き合う時間を持つことで、死別後の悲嘆を和らげる効果があるともいわれます。

グリーフケアにおける課題

ニーズも認知度も年々高まり、医療関係者の間でも強い関心が寄せられるグリーフケア。
しかしケアする側の体制はまだ十分とは言い難い現状があります。

まず、グリーフケアに積極的に取り組む医療機関が少ない点が指摘されています。
聖路加国際病院精神腫瘍科、城西病院内科「悲嘆ケア外来」、淀川キリスト教病院「グリーフケア外来」など、遺族ケアを行う外来を設けている医療機関、クリニックは増えつつあるものの、まだまだ不十分なのが現状です。
グリーフケアの必要性は認識しているものの、人員不足や多職種連携がうまく機能していないために、対応することが難しいケースもみられます。

また、ホスピス・緩和ケア病棟では、グリーフケアについて先進的な取り組みを行うケースが多くみられます。しかし、緩和ケア病棟で死亡したがん患者は全体の約8%(*4)と報告されており、いまだに多くの患者とその遺族が十分なケアを受けているとは言い難い現状です。

そして、グリーフケアとして有効なセルフヘルプグループ・自助グループについても、活動している地域が限定的、グループ数が少ないといった課題を抱えています。

在宅医療が普及しつつある今、在宅で家族が看取るケースも増えていくことでしょう。
グリーフケアの充実にむけ、早急な対応が望まれます。

まとめ

日本ではいつしか「死」が遠ざけられる風潮ができ、グリーフケアに関する研究も欧米のようにはまだ進んでいません。しかし、グリーフケアの必要性と世間からの関心が高まりつつあり、少しずつ状況が変わりつつあることは間違いありません。

 

グリーフケアはご遺族の単なる心のケアではなく、その後の人生、そしてQOLをも左右するものです。ご遺族が悲嘆と向き合い、立ち直り、希望を持ってより良い生活を始められるよう、寄り添い、共感するケアが求められます。

 

<参考文献など>

(*1)厚生労働省:平成26年人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000041847_3.pdf

 

(*2)工藤 朋子,古瀬みどり 「訪問看護ステーションにおける遺族ケアに関する全国調査」

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspm/11/2/11_128/_pdf/-char/ja

 

(*3)坂口幸弘 「配偶者との死別における二次的ストレッサーと心身の健康との関連」

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jahp/14/2/14_1/_pdf

 

(*4)宮下 光令,今井 涼生,渡邊 奏子「ホスピス・緩和ケア白書2013 1.データでみる日本の緩和ケアの現状」

https://www.hospat.org/assets/templates/hospat/pdf/hakusyo_2013/2013_2_1.pdf

 

宮林幸江,坂口幸弘,田子久夫「グリーフケアの実践と展望」

 

古内耕太郎,坂口幸弘「グリーフケア-見送る人の悲しみを癒す」

 

小野若菜子「地域に根ざした看護職が行うグリーフケア-思いやりのあるまちづくりを目指して」

 

writer
chocola

現在看護師8年目。大学病院の内科病棟に配属され、うち2年間は夜勤専従看護師として勤務。結婚と同時に退職し、現在は訪問看護師として勤務。

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