【訪問看護の失敗談】新人の頃泣いてしまったエピソードと教訓

訪問看護として働き始めた新人の頃の思い出です。病院・施設での仕事と違い、在宅看護の仕事は利用者様の領域に立ち入る必要性があります。病院や施設でしか働いたことが無かった私が初めて訪問した利用者様のお宅で「やらかしてしまった」今では恥ずかしい思い出をコッソリ教えます。

初めての訪問看護のお仕事

訪問看護の仕事は、病院や施設での看護師の仕事とは全然違います。病院や施設での仕事は、患者さんや利用者さんが病院や施設にやってきます。医師、看護師をはじめとして、職員も沢山いますし、設備もそろっています。

一方在宅医療・介護では、私たちサービス提供者が患者さん、利用者さんのお宅に伺います。一般の家庭ですから、設備も物品も限られています。また、基本的に医師は不在ですから、看護師は自分の知識と経験で一次的な判断をしなくてはいけません。さらに、数値や機械に頼らない、素早い判断能力を必要とします。

初めての受け持ち、Sさんの事

派遣会社から、
「訪問看護の事業所って行けますか?」と、ある日突然声がかかりました。私は、主に訪問入浴やデイサービスで働いていたので訪問看護は初めてで、少し迷いました。でも、折角のチャンスなので行くことにしました。

一番最初に受け持ちになったのは、Sさんという寝たきりで独居のおばちゃんでした。

2人の子どもたちは、東京と名古屋に出てそれぞれ家庭を持ちSさんは夫亡きあと、1人暮らしを続けていました。ある日、庭先で転倒し大腿骨の頸部骨折をしてしまいました。3カ月の入院生活の後、自宅に戻り在宅サービスを利用して1人で暮らしはじめました。

退院時家の中なら歩くことができたSさんでしたが家に戻ると、寝ている時間が多くなり半年後には、ほとんど寝たきりになっていました。

Sさんの問題は?

Sさんの問題は、食事量が少なく痩せていくことでした。受け持ったばかりの私は、一生懸命情報収集をしようと「Sさんの好きな物はなんですか?」と、聞いてみました。

「野菜の煮物」「お刺身」「おそうめん」「ぼたもち」「ちらし寿司」・・・
次から次へと、好物の料理が出てきます。でも、準備された食事をSさんは、全く召し上がろうとしません。

「どうして、召し上がらないのですか?」
心配で、私はSさんに何度も聞きました。

その度に、Sさんは
「折角、一生懸命作ってくれて食べたいのだけど・・・食べられないんだよ・・・。悪いね・・・。」

と、下を向いたまま、すまなそうに話すのでした。そんなSさんを叱ったり、怒ったりすることはできません。Sさんはどうして食事を食べられないのか・・・、私は不思議でした。

Sさんが食事をとれなかった本当の理由

Sさんの食事の準備は午前中のサービスに入るヘルパーさんが準備していき、
ご自分で召し上がって頂く方法で対応していました。食事介助までは、サービスに入っていませんでした。食事の様子を見たいと、私はお昼にSさんのお宅に行きました。
「Sさん、野菜の煮物とお味噌汁ですよ。」
そう言って、私は1皿ずつレンジで温めテーブルに置きます。

「あったかいと、美味しいよね、ありがとう。」
そういって、Sさんは食器を持ちます。
そしてラップを外そうとするのですが・・・。
ヘルパーさんは衛生面を考えて、ピッタリとラップをしていました。
目が弱いSさんは、ラップの端がどこにあるのか解りません。
一生懸命に手で探りますが・・・・。
ピッタリくっついているラップの端が見えないために、Sさんはどうしてもはがすことが出来ないのです。

Sさんはラップの端が見えないために外せず、食事が食べられなかったのです。
「もっと早く気づいてあげたら良かった、本当にごめんなさい。」
看護師をしていて、私は初めて患者さんの前で泣きました。

Sさんは、泣いている私の頭をそっと優しく撫でながら
「看護師さん、わかってくれてありがとう。」
と、言ってくれました。

訪問看護に取り組む上で大切なこと

病院や施設と違い、在宅の現場は様々な物が不足しています。そして、他人の領域に入り込んでサービスを提供するという困難が常に付きまといます。Sさんのケースでは、様々なサービスが提供されていましたが、Sさんの生活全体を見届ける事ができていませんでした。

これは、サービスを提供し関与していた全員に責任があります。
そして、訪問看護師としての大切な役目は、患者さんの生活過程の全体像を把握することです。

特に訪問看護の領域では、高齢の方が多いです。
1人ひとりの人生の軌跡の価値を尊重し、真心をこめてサービス提供をしたいです。

<ライタープロフィール>
野田長世
元看護師、認知症ケア指導管理士、フリーライター。
看護師時代は病院、老人施設の他訪問看護・訪問入浴・夜間介護オペレーター・デイサービス等様々な在宅医療・介護現場の経験あり。

 

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