骨折後の安静中に褥瘡を形成した99歳の患者/私の訪問看護事例

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ご高齢の患者さんでは、ほんの些細な体調の悪化でも気持ちが先に”重病人”になり、そのまま本当に状態が悪化してしまう方がよくおられます。
そうならないためにも、患者さん本人に「私は大丈夫なんだ!元気になってまた◯◯しよう!」と、安心感と生きる気力を与える、”気持ち”のケアが重要です。

今回は、そのことを誰よりも感じさせて下さった、ある患者さんの訪問看護事例をご紹介します。

<患者プロフィール>
年齢:99歳
性別:女性
利用サービス状況:訪問診療(月2回)、訪問看護(毎日〜適宜)、福祉用具(手すり、褥瘡予防マット、車いす、車いす用クッション)、デイサービス(※骨折前は週2回。骨折後は休止)

「畑仕事が日課!」のご近所でも有名な名物おばあちゃん

高血圧という以外、これまで大きな病気も入院も経験なかったAさん。
ちょっと物忘れはあるものの、畑作業と世間話が大好きで、みんなから愛される方です。

ある日、Aさんはひとりで畑へ行こうと玄関へ。
しかし急いだのか玄関のドアノブに頭をぶつけ、そのまま転倒…運悪く背骨を骨折し、そのまま1ヶ月間自宅安静となりました。

訪問の依頼があったのはその転倒から3週間ほど経った日。
往診医の先生から「ほとんど寝たきりになってしまって、褥瘡が出来てるから訪問お願いできる?」との連絡が。
その日にすぐ訪問し、訪問看護での褥瘡処置と状態観察が始まりました。

家族さえ”もうダメかもしれない…”と思うほどの急激な悪化

初回訪問時、Aさんは布団に横になった状態で、寝返りもなかなかとれない状態でした。
背中の痛みで長時間座っていられないために食も細り、「もうこんななってもうたらアカン…。早くあの世へ参らせてもらうわ」と気弱な様子。

やせ細って突き出た腸骨部の皮膚は薄く、持続する発赤と一部黒色に変化した部分が・・・左右ともピンポン球大の褥瘡でした。

ADLも著しく低下し、入浴も禁じられ、トイレはポータブルトイレを布団のすぐ横に置き、夜間も息子さん夫妻がつきっきりで見守り…と、日常生活すべてに介助を要する状態でした。
当時のAさんは、週2回のデイサービスは利用されていましたが、安静のために休止されており、何のサービスも利用されていない状況でした。

訪問看護の基本ー観察と環境調整、そして予防!

この訪問で行ったケアは大きく「環境調整」と「創部の治癒を促すケア」の2つです。

まずはじっくりとAさんの状態を観察。
円背で仰臥位がとれないAさんは必然的に横を向くしかなく、それも痛みのために寝返りをうまくできず、結果的に長時間同じ向きを取るしかない様子。これでは褥瘡ができるのも納得です…。

しかし、ご家族も疲労困憊の様子で、慣れない体位変換をお願いするのは負担が大きそう。
そこで、まずは「褥瘡悪化原因」の圧迫と摩擦を軽減するため、”褥瘡予防マット”を布団の代わりに敷くよう手配しました。また、摩擦の大きそうなかすりの衣服から、ご家族に協力を得て滑りのよい生地の衣服へと変更してもらいました。

次は、創部の悪化予防と治癒を促すケア。
座ると背中の痛みが出るため、食事を摂る気力も失っておられたAさん…。
皮膚は薄く、入浴も禁止され全体的に乾燥していました。

褥瘡の治癒には栄養状態の改善が不可欠で、医師の処方で高カロリーの栄養補助剤が始められましたが、かといって一朝一夕に良くなるものではありません。

そこで、処置方法を検討し
①創部を微温湯+泡で洗浄(不良肉芽を除去しつつ、温めることで血流も促進)
②使用薬剤の検討・塗布(炎症の強い初期はアズノール軟膏で炎症を抑えつつ湿潤環境を保持。炎症が治まってきた段階でワセリンに変更し、皮膚保護しながら湿潤環境を調整)
③弱った皮膚機能をドレッシングでカバー(状態に応じてドレッシング材を変え、正常な肉芽が盛り上がるまで傷の悪化を予防)

の3点を毎日1回実施していきました。

家族にも、Aさんに痛みを我慢させることがないよう、痛みの出現パターンをみて朝夕で鎮痛剤を内服させてもらうようお願いしました。
そうして褥瘡はそれから10日ほどできれいな上皮を形成し、間もなく治癒したのでした。

「いつお迎えが来てもいい…」から「100歳まで生かしてもらいたい」へ

「いつお迎えが来てもいい…。」そう言っていたAさんが、いつからか「100歳まで生かしてもらいたい!」とおっしゃるようになりました。

実際に行った処置は、病院での看護となんら違いのない、ごく基本的なことです。
では、今回なにがAさんをそこまで早く回復させたのか…?それは、処置の裏側にあったAさんに対する”個別的な関わり”だったと思います。

実は、私を含め訪問していた複数の看護師は、訪問時、家族と一緒になってAさんのことを気にかけ、少しでも痛みや『このまま良くならなかったらどうしよう・・・』という不安に目を向けないよう、意識的に楽しい昔話や家族のお話をいつも必ず30分以上は聴いていました。

そして、Aさんの人柄やこれまでの生き方を知るなかで、「随分傷が治ってきましたよ。そろそろ畑の草取りもしないといけないし、デイサービスにも行ってあげないと、みんなAさんがいなくて困ってますよ!」(※詐欺みたいですが、もちろん嘘はついてません。行ってもよい許可は得ていました)

というように、Aさんの”◯◯したい欲”をくすぐり、気持ちをアゲるような関わりを続けるうち、先ほどの言葉を自然と聞くようになったのです。

振り返ってみると、それはAさん自身の『生きる意欲(いきがい)』、生き続ける上での”はりあい”みたいなものを思い出してもらうような関わりだったと思います。

今では無事100歳を迎え、状態観察だけ済ませると居間で一緒にお茶をいただきます(※Aさんは栄養剤)。そして、晴れた日には畑まで一緒に散歩する…というのがAさんとの”お約束”になりました。

【まとめ】 訪問看護の最大の強みは?

訪問看護の最大の強みであり楽しみは、”利用者さんのためだけに時間を過ごせる”ことだと思います。

どうでしょう?あなたは30分以上、患者さんのベッドサイドでただお話を聞く、一緒にゆっくりお茶を飲むことがあるでしょうか?
(私自身も勘違いしていましたが、)情報収集の手段=会話・コミュニケーションではありません。ただそばにいって、ひたすらお話を聴くことが、今回のAさんのように元気になるきっかけになることもあるのです。

「忙しくてそんな時間ない!」という方…(わかります笑)、普段の検温の間だけでも意識して、5分からでも試してみてください。きっと何か変わると思いますよ。

writer
chocola

現在看護師8年目。大学病院の内科病棟に配属され、うち2年間は夜勤専従看護師として勤務。結婚と同時に退職し、現在は訪問看護師として勤務。

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