【オピニオン】口腔ケアの大切さを広め、高齢者の誤嚥性肺炎を撲滅したい(フリーランス歯科衛生士 薄井弘美)

厚生労働省の人口動態統計によると、日本人の死亡原因は、1位の悪性新生物(がん)、2位の心疾患に続き、第3位が肺炎です。肺炎による死亡数は年々増加しており、その背景にあるのは高齢化率の上昇と言われています。肺炎は高齢者に多く、その約7割を占めるのが「誤嚥性肺炎」とされ、各方面で対策が急がれています。

予防歯科のプロとして、誤嚥性肺炎撲滅を目指し日々活動している歯科衛生士さんたちがいるのをご存知でしょうか。東京を中心に活動している薄井弘美さんも、その一人。適切な口腔ケアをすることで誤嚥性肺炎を予防しようと、介護士・看護師さんらへの指導を中心に、さまざまな啓蒙活動に取り組んでいます。

危険な誤嚥性肺炎を防ぐための手立てについて、また、歯科衛生士という専門職の可能性について、今後積極的に発信していきたいという薄井さん。今回は、ココメディカマガジン編集部に届いたそのメッセージをお届けします。

薄井 弘美(フリーランス歯科衛生士)

横浜歯科技術専門学校歯科衛生士科卒業後、数々の歯科医院で勤務。歯科衛生士歴23年。2017年3月独立。現在はフリーランスの歯科衛生士として、介護施設や企業、歯科医院等に出張し、歯科保健指導や口腔ツボマッサージ、ホワイトニング、口腔ケア相談等を行いながら、誤嚥性肺炎をゼロにするための啓蒙活動を行っている。

 

 

 

誤嚥性肺炎は「口腔ケア」で回避ができる

歯科衛生士の薄井弘美です。日本では高齢化に伴い、誤嚥性肺炎を発症する患者さんが年々増えています。死に直結することも多いこの疾患を回避するために、この場を借りて、予防歯科の立場からお話をさせていただきたいと思います。

高齢者に多い誤嚥性肺炎

そもそも、誤嚥性肺炎とはどういうものかご存知でしょうか。
誤嚥とは、食べ物や液体が、本来流れ込むはずの食道ではなく、気管内に流入してしまうこと。
飲食物・分泌物・胃内容物の誤嚥により、口腔内の細菌が食物と一緒に肺に入り、細菌が繁殖して肺に炎症を起こす病気を、「誤嚥性肺炎」といいます。

人は物を食べたり唾液を飲み込んだりするとき、飲み込む瞬間、気管に入らないように弁がフタをし、気管の入り口を閉じます。
通常は自然に働くこの機能が、老化による筋肉の衰えや脳血管障害の後遺症などから、うまく働かなくなることがあります。
要するに、フタをするのが遅れるのですね。

こうして誤って気管に入ったものを、咳をすることで排出できればいいのですが、老化でそれもうまくいかないことがある。
高齢者の方に誤嚥性肺炎が多いのはこのためで、体力の弱っているお年寄りにとっては、命にかかわる場合も少なくないのです。

誤嚥性肺炎の主な症状

  • 高熱(37.5℃以上)が出る。
  • 激しく咳込む。
  • 呼吸するのが苦しい。
  • 痰が出る。

こういった症状が典型的なものですが、風邪の症状と似ていることに加え、高齢者の場合、表面に出る症状が軽かったり、自覚症状がないことも多いのが悩ましいところです。
そこで、周囲の人が「どうもいつもと違うな」と少しの変化にも気づいてあげることが重要になります。

兆候と発見法

  • いつもより、ぼーっとしていることが多い。
  • 呼んでも振り向くことができない(首が回っていない)。
  • 飲み込みに時間がかかり、食事時間が長くなった。
  • 口の中に食べ物がいつまでも残っている。
  • 食後に疲れた様子を見せる。

こういった、一見、肺炎と無関係に思える様子でも、「いつもと違う」のであれば、誤嚥性肺炎の徴候である場合があります。
普段の様子との「差」を目ざとく察知することが、早期発見の手掛かりとなるのです。

誤嚥性肺炎の原因

原因はズバリ、口の中の歯周病菌・カビ菌を誤嚥することです!

誤嚥性肺炎は、飲食物の誤嚥以外に細菌を含んだ唾液などの分泌物を誤嚥することでも起こります。
細菌は歯だけでなく粘膜、入れ歯にもはびこっていて、これが肺に入ってしまうのです。

また、睡眠中に、胃食道逆流により胃の内容物を誤嚥することで、誤嚥性肺炎になることもあります。
胃の内容物は酸や消化液を含んでいるので、気道粘膜を損傷して肺炎が起こりやすくなるとされています。

誤嚥性肺炎を予防するために

誤嚥性肺炎の予防には、その原因となるものを遠ざけることが一番。そして、誤嚥を防ぐということが大切です。

そのためには、日頃から免疫力が落ちないように、規則正しい食事を心がけること
自分で噛めるうちは、流動食ではなく普通食を、よく噛んで、ゆっくり食べるようにします。

食事のときの姿勢も大切です。椅子に腰かけているとき、かかとがしっかり床についているか、気を付けます。
少し前かがみになる方がよいので、できていなければ背中に座布団やクッションを置くなど、工夫しましょう。

食事の後も、すぐに横にならず2時間ほどは座位を保ち、胃の内容物の逆流を予防します。

嚥下がうまく機能していない場合は、嚥下訓練や嚥下トレーニングを取り入れたいですね。
デイケアや訪問リハビリなどで専門家に相談するとよいでしょう。

また、嚥下機能の低下を防ぐためには、口を使うことが一番です。
ご家族や施設スタッフの方は、普段からできるだけ話しかけて返事を促したり、一緒に歌を歌ったり、口の体操を一緒にしたりするとよいですね。

誤嚥性肺炎と口腔ケアの関係

そして、誤嚥性肺炎を予防する上で重要なのは、「口腔ケア」です。

誤嚥性肺炎を起こす細菌というのは、実は歯周病菌だからです。
誤嚥を繰り返しがちな高齢者の方でも、この菌を減らすことで、誤嚥性肺炎の発症リスクが抑えられます。

歯周病菌は、歯や歯茎だけに付いているのではありません。特に、舌の上の味蕾細胞のヒダの中には歯周病菌がいっぱいです。
ですから、意識されていないことが多いのですが、歯が少なくても、胃ろうであっても、経鼻栄養であっても、口の中の手入れが重要なのです。

特に入れ歯には要注意。実は歯と同じように歯石が付着し、その歯石の上にプラークが付着しやすくなるのです。
また、入れ歯洗浄の仕方によっては入れ歯に傷がついて、より歯石・プラークが付着しやすくなるので、的確なお手入れが必要です。

口腔内清掃は、歯ブラシでのお手入れの他、タンクリーナーで舌の上の清掃をするのが効果的です。
ポイントは、朝起きたらまず舌磨き!やり過ぎると舌の上の味蕾細胞を傷つけてしまうので、柔らかなタンクリーナーで週2回の清掃が理想的です。
舌の色、唾液の匂いが違ってきます。そして、味覚が研ぎ澄まされて、ご飯が美味しく感じられるはずです。

また、食事の前に1分でも口腔マッサージをすることを強くお勧めします。口腔内の40個のツボを押すことで、血流が良くなり、唾液の分泌を促すとともに、口の中の温度が上昇して免疫力アップに役立つ効果も期待できます。
認知症予防にもつながる、という説もありますので、ぜひ積極的に取り組みましょう。

簡単な口腔ケアで誤嚥性肺炎を減らせる!

実際に、この口腔マッサージを、介護に携わる方が覚えて患者さんに施していただけるように、私は今、介護施設などで指導させていただいております。
最初は歯みがきに抵抗のあった高齢者の方が、口蓋を触ることの気持ち良さがわかると、進んで口をあけてくれるようになり、口腔ケアでコミュニケーションが高まったというお話もよく聞きます。

飲み込みづらさ、喋りづらさの軽減にも効果が表れ、喜ばれることが多いですよ。

誤嚥性肺炎について多くの方が正しい知識を持ち、身近な方の発症を早期発見できたり、効果的に予防できたりするようになって、少しでもこの疾患が減っていくことを願っています。

 

予防歯科のプロとして声をあげたいこと

さて、歯科衛生士の私が何故、誤嚥性肺炎をなくすことを目指して積極的に意見を発信していこうと思ったのか。
ここで少し、私の話をさせてください。

私の仕事について

歯科衛生士歴は23年になります。数々の歯科医院で勤務をしていましたが、1年前に独立し、フリーランスとして仕事をするようになりました。

きっかけは、4年前に父が介護施設に入ったことで、高齢者の方たちに、自分の仕事をもっと役立てることはできないだろうか、と考えるようになったからです。
そして、富山市の歯科衛生士事務所「ピュアとやま」の精田喜代美先生に出会い、歯科衛生士が誤嚥性肺炎をなくすために歯科衛生士としての力を活かせると知り、精田先生の活動に感銘を受けてその門を叩きました。大変、有意義な学びをさせていただきました。

フリーランスとなった現在は、業務委託契約をして医院や施設・企業・個人宅へ出張し、口腔衛生指導をさせていただいております。また、ご要望があれば単発でも、例えば整体サロンなどへでも、歯みがき指導等に伺っています。
さらに、40~60代の方に向けて、誰もが最後まで自分の足で歩き、自分の口で食べられることを願って、セミナーを開催。
「未病」をテーマに、口の中の健康が腸内細菌に関係し、全身の健康につながる、というお話をしております。

これからは、自立する歯科衛生士を応援し、一緒に育っていけるような活動にも、力を注ぎたいと思っています。

誤嚥性肺炎撲滅へ向けて

師である精田先生は、早くから誤嚥性肺炎撲滅に向けて活動していました。
口腔ケアの独自技法を開発し、業務委託契約を結ぶ10か所の介護施設で、誤嚥性肺炎による入院ゼロを実現しています。

誤嚥性肺炎は予防できる病気です。先生の下で学んだノウハウを、私は首都圏で広げていきたいと考えています。
まずは施設の看護師さん、介護士さんにこのノウハウをマスターしていただき、患者さん、入所者さんの健康を守っていただきたいのです。

口腔全体を清潔にすることで、インフルエンザやノロウイルスの感染も少なくなり、施設で働く方たちへの感染予防につながります。そして、口腔状態や嚥下機能の改善を実感できることで、施設スタッフさんたちが自信を持ち、やりがいを感じてくださっているようで、それがとても嬉しいです。
実際、やりがいを実感できる機会が増えることで、施設職員の離職率が下がったという話も聞いています。

誤嚥性肺炎によって亡くなる方が増えている昨今、各科の医師や歯科医など、さまざまな立場から予防に向けたアプローチがされています。
私は歯科衛生士という予防歯科の立場から、この病気の撲滅に向けて取り組んでいこうと思っていますし、ドクターの皆さんとも連携したり、メディアに発信したりして、啓蒙活動にも力を入れていくつもりです。

歯科衛生士の未来像

この仕事をしながら感じているのは、患者さんが自分に適したアドバイスを切に求めているということ

ネットが普及した今、歯科用語や治療法なども簡単に情報収集できますが、当然ながらすべてが正しいわけではなく、自己判断したものの適切ではなかった、ということがままあります。

歯科治療を受けるのが苦手な方は多いですよね。実は私も苦手です。
だから、歯科治療が苦手で我慢に我慢を重ねてしまう方の気持ちはよくわかります。
わかるだけに、我慢を重ねたために歯科医院に治療に来た時には神経を抜かないといけないほど進行していたり、若い方なのに奥歯がほとんどなかったりという状況を見ると、とても悲しくなります。

迷ったり、悩んだり、寄る辺ない思いをしている患者さんを知るたびに、力になれるのは歯科衛生士だと、私は強く感じています。
専門的知識と経験のある歯科衛生士なら、個々の患者さんの症状や事情に合わせて、適した歯科医院を紹介したり、アドバイスをしたりすることができます。

そして、国家資格を持つ歯科保健指導のスペシャリストとして、どんなホームケアをすればよいかを、しっかり丁寧にお伝えできます。

患者さんの環境、希望により、より良い選択ができるよう、患者さんの気持ちに寄り添いQOLを高めて行くお手伝いができる。それこそが、これからの歯科衛生士に求められることではないでしょうか。

フリーランスの歯科衛生士も少しずつですが増えてきたように感じます。
口の悩み解決のため、最初のアプローチとして歯科衛生士にアクセスする。今後、そういうケースが増えていくことを切に願っております。やりがいと使命感を感じますね。

頼りにしてもらえる歯科衛生士でありたい。一人でも多くの方に笑顔と幸せを届けるために、私はこれからもベストを尽くします。

(編集・磯貝ありさ)

 

 

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