歯を失う大きな要因となる、2大疾患があります。それが、「虫歯」と「歯周病」です。どちらも治療が遅れると最終的には歯を失ってしまう病気です。
ですが、歯を失うまでの経過が異なるなど、それぞれに特徴があるので、歯科医師の観点から解説いたします。
虫歯とは?
虫歯は、歯科専門用語では「齲蝕(うしょく)」、英語では「caries(カリエス)」と言います。歯科健診などで歯の状態を「C」と呼ぶのは、cariesの頭文字をとっているためです。
虫歯は歯そのものに病気が発生します。以下、虫歯の分類用語を解説します。
C0:歯の表面に限局した虫歯。白濁している。健康に戻る可能性がある。
C1:エナメル質に虫歯が進行している。この時点で痛みは感じない。
C2:象牙質に虫歯が進行している。ここから痛みを感じるようになる。
C3:神経に虫歯が進行している。場合によってはかなりの痛みを感じることがある。
C4:歯が崩壊して根っこだけ残っている状態。痛みを感じない。
また、虫歯の原因として知られている代表的なものが、連鎖球菌の一種である「ミュータンス菌」です。口の中に存在する悪玉菌の一つであり、歯垢(プラーク)を作る原因でもあります。
つまり、ミュータンス菌を減らすことができれば、虫歯にはなりにくくなります。

歯周病とは?
歯周病は、歯の周りの歯肉の組織に炎症が起こり、やがて歯を支えている骨(歯槽骨)を徐々に破壊し、最終的に歯が抜けて無くなってしまう病気です。 「歯槽膿漏」という言葉をよく耳にしますが、実は、歯槽膿漏は「重度の歯周病」と同じです。
歯周病は、大別して以下の3タイプに分類されます。
P1:軽度歯周病
P2:中等度歯周病
P3:重度歯周病
分類の細かい説明は専門的すぎるので省略しますが、歯周病が悪化すると歯が自然に抜けてしまいます。そして、かみ合わせが出来なくなっていきます。
歯周病の原因としては、歯垢(プラーク)の中の細菌が歯肉に接触して起こるものや、持病による免疫力の低下などが引き金となるものなど、様々なケースがあります。
そして、重症度が増すと、血流にのって全身に歯周病の細菌がめぐります。その結果、全身疾患を増悪させることが知られています。歯周病は口の中だけの病気でなく、全身にかかわっている病気なのです。
(次回コラム[【在宅医療と口腔ケア 第五回】歯の病気と全身疾患の関係性]で詳しく解説します)

「8020(ハチマルニイマル)」運動とは?
「8020(ハチマルニイマル)運動」という言葉をご存じでしょうか?「80歳まで歯を20本以上自分の歯を保とう」を目標に掲げた、日本歯科医師会が推進している 運動のことです。
本来、健康な人間の歯は28本あります(親知らずを除く)。そのうち20本以上を維持できれば、自分の歯で食事をおいしく食べられ、食生活の満足度が高くなるといわれています。
しかし、28本のうち、8本なら失っても大丈夫というわけではなく、できる限り、自分の歯を残した方がいいことは言うまでもありません。1本でも多くの歯を長く残すためには、日々のブラッシングが不可欠です。
虫歯と歯周病の仕組みを知り予防を徹底しましょう
歯を失ってしまう大きな病因が、虫歯と歯周病です。虫歯は歯そのものが、失われしまう病気。歯周病は、歯の周りの組織が無くなっていく病気です。人間の口の中は、虫歯菌か歯周病菌のどちらかに偏っている傾向がありますが、虫歯になっていない=歯周病にはならないということではありません。
定期的に歯科の健診を受け、ご自身の歯を保つことを忘れないようにしてください。また、歯を残す目安として「8020運動」を参考にしてみてください。
参考文献
■ E-SMILENET
http://www.e-smilenet.com/
■ 歯周病の診断と治療のガイドライン改定検討部会
http://www.jads.jp/news/shisyubyo.pdf
■ テーマパーク8020
https://www.jda.or.jp/park/relation/teethlife.html
シリーズ全10回 リンク集
第2回 口腔内の細菌について知っておくべき事実
第3回 歯の本数と全身の健康状態
第4回 虫歯と歯周病について
第5回 歯の病気と全身疾患の関係性
第6回 口腔ケアが肺炎を防ぐ第一歩
第7回 口腔ケアの具体的な方法〜歯が残っている場合〜
第8回 口腔ケアの具体的な方法〜義歯の場合〜|在宅医療と口腔ケア(第8回)
第9回 飲み込みの訓練について|在宅医療と口腔ケア(第9回)
第10回 注目のキーワード オーラルフレイルとは|在宅医療と口腔ケア(第10回)

【執筆・監修】
池川 裕子(いけがわ・ゆうこ)
医療法人社団活生会 安寿歯科 院長
松本歯科大学卒業後、神奈川歯科大学にて研修。都内の訪問歯科クリニック勤務後、安寿歯科の院長に就任。
多職種の方々に対し口腔ケアの重要性の理解を広めるため首都圏を中心に幅広く活動しています。
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