【在宅医療対談】超高齢社会の未来を政治と医療現場から考える(石井苗子×高井俊輔×安井佑)

キャスター・女優・保健師、そして参議院議員という幅広いキャリアを持つ石井苗子参議院議員、大阪市を拠点に在宅医療に取り組む医師の育成に取り組む高井俊輔医師、東京都板橋区で終末期医療と新たな在宅医療専門職(PA)の確立に力を注ぐ安井佑医師にお集まりいただき、日本が直面している超高齢社会の課題とこれから向き合うべき方向性について様々な切り口で討論していただきました。

出演者紹介

参議院議員 石井苗子氏

石井苗子 議員浅草生まれ、横浜育ち。山手学院高等学校卒業後、米国ワシントン州立大学へ留学。上智大学へ編入学、卒業。日米漁業交渉団の同時通訳、キャスターを経て、映画「あげまん」の出演を機に女優として活動を始める。難病を患う妹のケアのため43歳で聖路加看護大学に入学。看護学を専攻し卒業。看護師・保健師の資格を取得後、東京大学大学院に進学し2004年に修士、2008年に保健学博士号を取得。2011年に東日本大震災被災住民支援プロジェクト「きぼうときずな」を設立。プロジェクトリーダーとして現在も活動を継続している。震災支援の経験を通じ政治を変えようと決意。2016年参議院選に比例代表で立候補し初当選。

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医療法人 慶春会 福永記念診療所(ナチュラルケア・グループ) 理事長・院長 高井俊輔氏

福永記念診療所 高井俊輔近畿大学医学部卒業。同大学付属病院血液内科、城山病院内科勤務を経て、2006年松原たかいクリニックを開設。翌年、在宅医・訪問歯科医で構成する在宅医療ネットワークのナチュラルケア・グループを設立。2008年医療法人慶春会を設立し理事長に就任。現在は福永記念診療所院長として外来診療・訪問診療を行いながら講演会活動や開業を目指す在宅医の育成に情熱を注ぐ。

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医療法人社団 (ほむら) やまと診療所 院長 安井佑氏

やまと診療所 安井佑2005年東京大学医学部卒業。千葉県旭中央病院で初期研修後、NPO法人ジャパンハートに所属し、1年半ミャンマーにて臨床医療に携わる。杏林大学病院、東京西徳洲会病院を経て、2013年東京都板橋区にやまと診療所を開設。現在は終末期医療に力を注ぐと同時に、新たな在宅医療の専門職(PA)の確立を目指している。

やまと診療所 ホームページ

医療現場で感じる「認知症×独居高齢者」の課題

  高齢化が進む日本では、在宅医療・地域医療はますます重要になっています。今回は皆さんのご経験談をもとに日本の医療の現状や課題について考えたいと思います。

  石井先生は、キャスター・女優・保健師としての活動と経て参議院議員というキャリアを積んでおられますが、現在感じている日本の医療の課題点を教えていただけますか。

石井 私は10年ほど前から現在もヘルスケアカウンセラーとして板橋区にある病院の心療内科に非常勤として勤務しています。実際に現場に立って感じたことは病院を訪れる患者さんの多さと病院側のスタッフの忙しさでした。時には1日に50人以上のカウンセリングをすることもあります。それに加え、ヘルスケアカウンセラーはカウンセリングだけが仕事ではなく、カルテ入力や電話対応、看護師への伝達など幅広い業務を担当する必要があったので、本当に目が回るくらいの忙しさでした。

普段から医療現場に立っていたことで患者さんたちが不安になる気持ちを肌で感じていたので、東日本大震災の時も、スムーズに医療サービスを提供できる体制の早期復旧と被災者の心のケアを急がなければいけない、という思いで東日本大震災被災住民支援プロジェクト「きぼうときずな」を立ち上げ、現地で災害支援活動を行ってきました。

 

▲参議院議員 石井苗子氏

 

被災地を含めて私が医療現場に身を置いていて一番大きく感じている課題は「認知症×独居高齢者」の問題ですね。都市部でも地方でも直面している大きな課題です。

認知症はガンなどの他の病気と違って症状が進むと自分でもわからなくなってしまいます。患者さんも家族も「認知症なんて、そんなはずはない…」となることが多く、なかなか病気の事実を受け止められないんです。「こんなに規則正しい生活をしていたのになんでですか?何でこうなったのですか?」とご家族から聞かれ、答えに窮することもあります。医師として患者さんたちに向き合っているお二人も大変なことが多いのではありませんか?

高井 実際の医療現場でも、ご本人が認知症であることを理解してくれない、というケースは多いです。私の実体験ですが、二週間に一度きっちり通院してくれていたおばあさんが、ある日を境に来院しなくなってしまったことがあります。

8ヶ月ほど経ったある日、遠方に住む娘さんと一緒に車いすでやってきたのですが、私が娘さんに「どうしたの?入院していたの?」と話を伺うと、この8カ月の間に急に認知症が進んで、病院に行きたくない、自分は病気ではない、と言ってひきこもりのような状態になってしまっていたことがわかりました。

それから看護師やケアマネが症状について何度も説明しにいきましたが、「私は病気じゃない」と納得してもらえなかった。認知症が進むと短期記憶力が弱まってしまうため初対面の人の話を聞いてもらうことは難しいんですね。

そこで、昔から知ってる人だったら心を開くかもしれないと、毎日医師の私や看護師さんがアプローチをするようにしたことで、家にも入れてくれるようになり、そこからようやく診療がスタートできたというお話です。

このケースでは、娘さんが気づいたことで医療側との連携が取れたのですが、独居の認知症高齢者の中には、外来にも在宅医療にもかかっていない「医療の狭間」にいる方がかなりの数いらっしゃるんですよ。この層へのアプローチは地域としてどうするべきか、という問題意識を私は持っています。

▲医療法人 慶春会 福永記念診療所(ナチュラルケア・グループ)理事長・院長 高井俊輔氏

石井 認知症をもつ高齢者の場合は、なかなか地域でケアするのも難しいですよね。慢性疾患の場合であれば、複数症例が集まると統計データをもとに傾向や対策がある程度算出できますが、認知症は症状が複雑なので、まさに一人一人の「うちの場合は」という個別対応の集合体になってしまいます。

症状や治療が地域である程度まとまるのであれば「うちの地域は」と、地域包括ケアで対応できるかもしれませんが、認知症の場合は、地域包括ケアでも対策を考えるのはなかなか難しいのではないでしょうか?

安井 確かに地域包括ケアで認知症の高齢者を支えることは容易ではないですが、私は日々患者さんや現場と接している身として、地域包括ケアで認知症の高齢者を支えるのはそれほど難しくないのでは、と前向きに捉えています。

私が訪問診療を行っている東京都板橋区の高島平団地は、東京西部の多摩地区と並んで高齢化が進んでいる巨大団地群として事例にあげられることが多いですが、実際にはこれらのニュースが流れれば流れるほど、NPO法人やボランティアの方々が積極的にサポートに来てくれ、関心を持って支援してくれている人がどんどん増えています。

逆に、やまと診療所の連携クリニックがある宮城県登米市では、地域の繋がりがまだまだ強く、また、地域の人々と触れ合うことができる地域のコミュニティなどもあるため地域でサポートし合う体制があると言えます。都会も地方も、それぞれの地域にあった形で、自発的な取り組みが出来始めている様に感じています。

▲医療法人社団 焔(ほむら) やまと診療所 院長 安井佑氏

  認知症は患者さんの記憶の中にある人や場所、言葉などもケアに大いに関係してきます。今後の地域医療にはどのような医療が求められているのでしょうか?

安井 地域の住民が認知症を正しく理解し、医療介護のプロが介入しやすい状態を作ることだと思います。先ほどの板橋区を例に挙げると、要介護3以上の高齢者の約半数、48%が独居です。高齢で独居になった人たちが認知症を患わっているということが、当たり前といえる状況になりつつあります。

年齢を重ねることと認知症が切り離せないものだとしっかり理解を浸透させ、必要なタイミングで医療のプロが介入できる環境にさえなっていれば、今の日本の医療介護の仕組みの中で十分な支援を行うことができます。

5分前の記憶すらない認知症の方も昔のことは忘れません。長く住み慣れた自宅だからこそ、認知症を患いながらも一人暮らしを続けることができます。実際にこのような例は100も200もあります。とにかく何かあったらプロに繋げる、ということさえできれば、私は認知症患者さんも自宅で暮らし続けられると思います。

  認知症患者さんが安心できる「自宅」での生活を、医療と介護のプロが支える。これから求められるのはまさに、在宅医療なんですね。


在宅医療に求められるイノベーションの姿

  2025年問題が大きな医療・介護のテーマになっているように、ますます高齢者は増加していきます。財政面や介護保険の充実など様々な課題もありますが、在宅医療の現場で求められている取り組みについて、ご意見を聞かせてください。

石井 これから考えないといけないのは、医療従事者も含めて、患者さんの周囲の人たちが疲弊しないこと、つまり「レスパイトケアの観点」だと思います。

認知症はグレードが上がると自分が分からなくなります。医師や看護師、介護者は彼らが何度も同じ内容を話す会話に応じないといけませんが、実際にはこれが大変でほとんどの方が疲弊してしまうんですよ。

以前、私はこの部分をサポートできるロボットの開発に関わったことがあります。認知症になって何度も同じ話をしても、AIが何度でも同じ会話をしてくれるロボットです。当時の開発は良いところまで進んでいたのですが、AIに会話を覚えさせていく過程で病状や家庭環境の情報など機微なプライバシー保護の部分が解決できず、当時のプロジェクトは暗礁に乗り上げてしまいました。

安井 最近のAI技術は進化していて、情報をあらかじめインプットさせなくても学習できるようになっているので、今なら実現可能かもしれませんよ。そのロボットが患者の挙動でトイレに行きたいなどの行動も察知することができればより実用性があるでしょうね。

高井 そういった最新技術の開発は今、ベンチャー企業が活発に行っていて、医師側にも売り込みやプレゼンにやってくる会社が多数ありますね。技術革新については必要以上に行政は介入せずにベンチャー企業が自由に技術力を高めて積極的に開発できる土壌づくりができてさえいけば、これからまだまだ新しい技術が生まれてくると思います。

石井 おっしゃる通り、民間のベンチャー企業がイノベーションを起こす土壌は随分できてきていますので我々行政側はそういった活動をメディアやマスコミを通して社会に広げ、世間が受け入れやすいものにすることが使命だと考えています。

▲石井議員は、昨年ヘルスケアカウンセラーとしての経験と想いをまとめた書籍を出版。現代の日本人の病との向き合い方を考え続けている。

高井 技術のイノベーションと並行して、先ほどの話でもあったように「誰もが認知症になりうる」という事実ももっと社会に知らせていく必要がありますね。例えばドイツなどでは、身体機能を低下させることができる専用器具を使って若者に高齢者の疑似体験をさせたりしていますが、日本でもこういった体験ができる場をもっと増やす必要があるでしょう。その上で、様々なサポート機器も利用者やご家族が「なんだか恥ずかしい」と感じたりしない、洗練されたデザインのものが求められますね。

石井 生活をサポートする機器や道具がお洒落で格好良いものであれば、認知症や障害を持っても格好良く生きたい、という生きる意欲に繋がりますからね。行政側の立場からは、国民全員が「格好良く生きよう」と思える仕組みを作りあげていく必要があると考えています。官と民が協力して、認知症になっても幸せに暮らせるビジョンを描ける日本にしていかないといけません。

高井 そういった国全体の雰囲気づくりの部分こそ、ぜひ石井先生のような政治家の方々に声を大にして叫んでいただきたいと思います。「格好良く生きよう」ってすごくいいメッセージですね!

▲三者は本日初対面だったが、医療への共通する想いも多く、対談開始早々に活発な意見交換が始まった。


昔ながらの“おせっかい”がまだこの国には必要

  イノベーションの重要性や官民それぞれからのアプローチの仕方についてお話をいただきました。最後に、今後さらに議論を深めるべき在宅医療・地域医療に関するテーマは何か、皆さんのお考えを教えていただけますか。

石井 昔はそれぞれの地域に保健師がいて、彼らが地域の住民のケアをしていた時代がありました。ところが今は、保健師の人手不足の上に、地域住民のケア以外にも大量の仕事があるため、役割が昔とは変わってきています。保健師と地元住民とのかかわり合いも当然少なくなっています。「自分のことは自分で守らないといけない時代」になってきているのかもしれません。

安井 在宅医療の場合、純粋な医療行為は3割程度で、残り7割は患者さんを取り巻く生活環境の調整なんです。この7割はコミュニケーションを通じた、まさに古き良き日本のおせっかいの精神が大事な部分。日本の昔ながらの「おせっかい文化」を取り戻すことが認知症を含めた高齢者の在宅ケアをサポートすることにつながり地域のケアを良くしていくことにつながるのではないかと思います。 

▲「おせっかい文化を取り戻す」ことが大事と語る安井先生。高齢者を国民全体で支える日本人全体の「雰囲気づくりが重要」という点で三者の意見が揃った。

  高齢者医療だけに関わらず、近隣との関係が希薄になっているという話はよくメディアでも話題になりますが、今の日本に昔ながらのおせっかい文化を取り戻すことは可能だと思われますか?

安井 世間体やプライバシーを気にするようになって近隣との関係性が変わってきたのは、ここ20年くらいの話ですよね。今でも映画「ALWAYS 三丁目の夕日」のような昭和の時代を思い出して涙を流す人が多いのは、昔の日本にノスタルジーを感じるからでしょうし、仕組みや仕掛けによって、あの頃のおせっかいな雰囲気は取り戻せるのではないかと思っています。

高井 多様性やプライバシーが叫ばれている今の日本で、おせっかいという行為が100%良いと言えるかは難しいところですよね。しかし、これからの日本人は一人一人が自覚と危機感を持って助け合っていかないといけない、という雰囲気づくりは必ず必要になりますね。

安井 おせっかいをすることが大多数にとってのメリットである、という事実を説いていかないといけないですね。民主主義は大多数にとっての最大幸福を前提としているわけですから、全員の意見は認められないと。大多数の人がおせっかいをして様々な状況を乗り切っていかないと最大幸福は得られないよっていう理解が今後必要になるかと思います。これは、やっぱり強いリーダーシップを持って発信していかないといけないでしょうね。

石井 確かに、女性の社会進出が叫ばれ始めた時代も、本当にそれでいいのかという議論が何度も上がりました。それでも現在のように女性が様々な分野で活躍することができたのは、やはり必要性があり、それを行政も国民も理解したからでしょう。そして同様の問題が今、高齢者へ対して起きているわけです。これについては官民が知恵を絞り、最適な環境を整えていくことが今求められています。 

高井 昔は9人で1人の高齢者を支えていましたが、今は3人で1人を支えており、2050年には若者1人で高齢者1人を支える時代がやってくることは避けられない事実です。この超高齢社会を支えるため、高齢者や認知症患者向けのイノベーションに加えて、医療関係者や地域住民によるいい意味でのおせっかいを見直していく必要がありますね。

石井 多様化が進んだ今、何かを発信した時に多少不満を持っている人も確かにいるかもしれませんが、そうした意見に負けずに、高齢になっても「お洒落で格好良い未来が待っている」「楽しい未来がある」ということを、声を大にしていきましょう。行政、医療機関、そして高齢者事業に関わる企業がそれぞれの立場から、これからの日本は、高齢者にとって楽しくて前向きで、格好良い未来を用意していると社会に発信していかないといけませんね。

▲対談の時間はあっという間に過ぎ、まだまだ話し足りない様子。それぞれが真剣に課題に向き合っているからこそ、有意義な意見交換の機会となりました。


取材後記

三者三様の立場から意見交換を行った今回の対談は、様々なテーマで話が広がり、話題が尽きませんでした。ますます注目が集まる在宅医療は、様々な立場の方がそれぞれのアイデアをもってアプローチするべきテーマです。今回の対談を皮切りに、ココメディカマガジンでは2017年も在宅医療に取り組む皆さんの新しい気づきになる特集企画を発信していきます。

 

高井俊輔先生、安井佑先生の単独インタビュー記事はこちらから。

“チーム医療”の可能性に挑み続けたい -医療法人慶春会 福永記念診療所 理事長 高井 俊輔-

2016.10.28

在宅医療を当たり前の社会インフラに‐医療法人社団 焔(ほむら)やまと診療所 院長 安井佑‐

2016.11.22

 

特別対談企画 公開中 “石井苗子参議院議員対談”

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