【海外の在宅医療・イギリス編】認知症関連のケアが充実!イギリスの在宅医療・看護事情

日本の在宅医療だけでなく、海外の在宅医療を知ろう!ということで始まった新連載「海外の在宅医療」。第二弾はイギリスです。「ゆりかごから墓場まで」という言葉が生まれたイギリスでの、在宅医療による認知症ケアについてご紹介します。

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2018.05.15

【イギリスの医療制度】国民皆保険&家庭医(GP)によるプライマリ・ケア

在宅医療をご紹介する前にイギリスの医療制度をご紹介します。

 

イギリスは日本と同じ、国民皆保険制度が導入されている国。

包括的な保健医療サービスをすべての人に無料で提供するという理念のもと、1948年に設立された国民保健サービス(National Health ServiceNHSと呼ばれています)によって、すべての国民がほぼ無償で医療サービスを受けることができます。

社会保険料を国民から徴収して運営する日本とは異なり、財源のほとんどが国の税金でまかなわれており、患者の自己負担はわずか2%程度となっています。

 

日本とは異なり、自分で自由に病院を選ぶこと(フリーアクセス)は認められていません。


あらかじめ選んだ家庭医(
GPをまず受診し、必要であればGPから高度な医療を提供する専門医や病院を紹介してもらうプライマリ・ケアが徹底されています。


高度医療への門番の役割を果たす
GPと、二次医療を提供する専門医や病院とで機能がはっきりと区別されているわけですね。

 

【イギリスの医療制度】認知症対策が国家戦略に!

つづいての特徴は、認知症ケアが国家戦略として定められていること

政府は、2009年に「認知症国家戦略」を発表し、2014年までの5年間、認知症のケアに重点的に取り組む方針を明らかにしました。

この方針が決められたのには、認知症患者の増加と、それに伴う医療費の増大が背景にあります。

 

まず、認知症の患者数については、2008年時点で70万人が罹患しているとのことでしたが、2038年には140万人に倍増すると見込まれています。

医療費についても、2008年には170億ポンドだったものが、2038年には患者増加によって500億ポンドになると試算されています。

先ほどご紹介したNHSは、税収で運営費の8割程度がまかなわれていることから、国家予算の中で医療費の割合が約2割と、多く占めていることが問題視されています。

この状況がさらに悪化し、イギリスの国家経済に大きな影響を与える要因となるとの判断から、認知症国家戦略がつくられたのです。

 

それでは、戦略の具体的な内容をご紹介しましょう。まず、3つの基本理念と17の政策目標が定められました。

 

そして、これらのうち、特に重点的に取り組むべき課題として、5項目が挙げられました。

1. 早期の診断・支援のための体制整備

2. 総合病院における認知症ケアの改善

3. 介護施設における認知症ケアの改善

4. ケアラー支援の強化

5. 抗精神病薬使用の低減

導入が少し長くなってしまいましたが・・・この「5つの目標」、イギリスの在宅医療・看護にかかわる重要な事項なのです。
次の項からは、イギリスの在宅医療の現状と、独自の取り組みをご紹介していきます!

 

イギリスの在宅看護の概要

イギリスの医療サービスは、国が運営するNHSによって提供されており、在宅看護についてもこちらに該当します。

介護などの福祉は地方自治体が主体となりますが、いずれも税金が財源となっています。

 

私たちが日本で「在宅医療・看護」としているケアは、イギリスでは「地域保健サービス」という形で実施されています。

近年イギリスでは、病院でのケアから、地域保健サービスによる自宅でのケアを中心に移行しつつあり、住み慣れた地域で効果的なケアを提供することを目指しています。日本と動向がよく似ていますね。

地域保健サービスによるケアの内容は、患者のアセスメント結果によって多岐にわたります。

地域看護師が行う注射や投薬などの医療的なケアのほか、保健師による健康指導、ヘルスケアアシスタントが行う入浴などの身体介護など、多職種が連携してさまざまな支援を行っています。

また、地域看護師は訪問看護を実施するだけでなく、患者へのアセスメントや多職種との調整など、コーディネーターとしての役割も果たしています。

 

このように地域での多職種連携が、地域看護師中心に実施されているイギリスですが、地域やサービスを提供する団体によって内容が異なり、独自の取り組みが多く実施されていることが特徴です。

次の項では、そんなイギリスでの在宅看護に関する取り組みについてご紹介します。

 

認知症患者&家族を訪問ケア!認知症ケア専門看護師 アドミラルナース

アドミラルナースは、認知症患者とその家族を支えるための「認知症ケア専門」の訪問看護師

イギリスでは地域によってさまざまな医療や介護サービスが提供されていますが、アドミラルナースについても、ロンドンのNPO団体「ディメンシアUK」が独自に取り組んでいます。

認知症患者とその家族を看護した経験や、認知症についての専門知識を持っていることなどの要件を満たした看護師が、アドミラルナースとして認定されます。

 

アドミラルナースの特徴は、認知症患者へのケアはもちろん、患者の家族への支援も行うこと

認知症と診断されて不安を感じている患者とその家族に、認知症を適切に理解してもらえるよう、自宅や施設に訪問して個別支援を行います。

また、認知症患者とのコミュニケーションについてのテクニックなどの実践的なアドバイスをするほか、精神的に負担に感じている家族への心のケアも行います。

 

アドミラルナースによるケアを受けることで、家族の負担が軽くなるだけでなく、施設や病院に入る患者が減少し、自宅で過ごすことが増えます。それによって、医療費の抑制にもつながると考えられています。

 

認知症の早期発見に!メモリーサービス

メモリーサービスは認知症の早期発見と診断のために作られた地域の拠点のこと。

イギリスでは自宅でのケアを重視する方針が示されていますが、メモリーサービスもその取り組みのひとつ。

認知症を早期発見し、患者が自宅で安心して生活し続けられるよう、家族やスタッフがサポートしており、認知症国家戦略の中で重要な役割を果たしています。

 

現在、65歳以降の高齢者4人に1か所の割合で設置されており、アドミラルナースなどの看護師のほか、上級心理士や作業療法士、ケアマネージャーなどの多職種でチームが構成されています。

 

利用の流れとしては、まずGPを受診し、紹介を受けた患者はメモリーサービスを受診する、という流れになっています。

その後、社会的背景なども含めたかなり詳細なアセスメントをメモリーサービスや自宅で実施した後、必要と判断した場合のみ、専門医や病院で脳の検査や診断を行います。

ここでもプライマリ・ケアが徹底されていることがわかりますね。

 

メモリーサービスを利用することで、認知症が進行する前に発見、診断ができるようになるため、患者本人の判断で治療についての意思決定すること、そして初期段階から家族へも適切なケアを提供することができます。

地域包括ケアを実現し、自宅での生活を支える仕組みができているのですね。

 

まとめ

今回はイギリスの在宅医療を通した認知症ケアをご紹介しました。医療費が膨大であることや、診察待ち状態が長くすぐに医療行為を受けられないといった問題点も指摘されていますが、認知症患者だけでなく、患者を介護する家族へのサポートや、地域包括ケアによる医療提供など先進的な取り組みもたくさん行っています。自宅でのケアを重視する方向に移行しつつある日本でも、学ぶべきポイントがあるのではないでしょうか。

 

参考文献など

小磯 明 イギリスの認知症国家戦略

白瀬 由美香 イギリスにおける在宅看護事業の普及と機能分化

https://doors.doshisha.ac.jp/duar/repository/ir/13898/040000020005.pdf

白石 真澄 英国における認知症当事者のケアとインフォーマルサービス

https://kuir.jm.kansai-u.ac.jp/dspace/bitstream/10112/10992/1/KU-1100-20170331-05.pdf

株式会社キャンサースキャン 諸外国における訪問看護制度についての調査研究事業報告書

https://cancerscan.jp/wp-content/uploads/2015/05/678803a33b72f64f190deb3ce3bfad6c.pdf

公益財団法人東京都医学総合研究所 認知症国家戦略の国際動向とそれに基づくサービスモデルの国際比較研究報告書

http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/topics/dl/130705-2/2-38-2.pdf

厚生労働省 2017年 海外情勢報告 http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kaigai/18/

Dementia UK  https://www.dementiauk.org/

 

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