【海外の在宅医療・スウェーデン編】「在宅」が高齢者ケアの主流!スウェーデンの在宅医療・看護事情

日本の在宅医療だけでなく、海外の在宅医療を知ろう!ということで始まった新連載「海外の在宅医療」。第三弾はスウェーデンです。福祉国家として知られる北欧の中でも在宅ケアの利用率が高く、高齢者介護の主流となっています。そんなスウェーデンの在宅医療についてご紹介します。

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県=医療、市町村=社会福祉。地方自治体が運営する医療・福祉制度

福祉先進国として知られるスウェーデン。人口の65歳以上が占める割合は19.8%(2016年)となっており、高齢化が進んでいます。

しかし急速に高齢化が進んだ日本とは違って、1950年代にはすでに高齢化率が10%を超えており、この頃から高齢者ケアについて政府が積極的に取り組んできました。

その結果、福祉制度が充実した国として世界から注目される存在になりました。

 

現在、医療・福祉については地方自治体が運営する権限を持っています。

医療についてはランスティング(県)、高齢者や障がい者への福祉についてはコミューン(市町村)、という形で役割が分担されていますが、それぞれが独立した機能を担っており、上下ではなく対等な関係が築かれています。

運営資金についても、日本のような保険制度とは異なり、それぞれの地方税によってまかなわれています。

なお、在宅ケアは、福祉(介護)の管轄となり、主にコミューン(市町村)が担当しています。

 

地方自治体に権限が与えられていることから、患者の自己負担など医療・介護制度の詳細について、地域ごとに違いがみられるのが特徴です。

 

【医療】スウェーデンのランスティング(県)が提供する医療サービス

在宅医療についてご紹介する前に、ランスティング(県)が担当する「医療」についてご説明しましょう。

 

「ランスティング(県)が運営している」ということは、医療に関連するサービスについてはほとんどすべてが「公営」であるということです。

最近、民間の医療サービス事業者も増えてきていますが、ランスティングが主体であることには変わりありません。

病院で働く医師や看護師などのスタッフも“全て公務員”で、この点が最大の特徴といえます。

 

また、これまでにご紹介したオランダ、イギリスなどと同様に、病院の役割が機能ごとに細かく分けられており、高度な医療を提供する圏域病院のほか、ランスティングごとに設置されたレーン病院、地域住民の最初の窓口としてプライマリ・ケアを提供する病院などがあります。

ちなみに、プライマリ・ケアについては、受診する病院を患者自身で選ぶことが2010年に認められています。

この点については、病院へのフリーアクセスが認められている日本とも少し似ているかもしれませんね。

 

現在、スウェーデンでは高齢者へのケアについては、在宅での介護が中心となっています。

ランスティングの病院は減少傾向にあり、1991年に全国で約9万4000床(人口千人当たり10.8床)あった病床数も、2016年には約2万3200床(2.4床)まで減少しています。

なんと減少率75%。非常に大きな社会改革だったことがわかりますね。

 

【介護】高齢者ケアの中心。コミューン(市町村)が運営する在宅介護

医療につづいて、コミューン(市町村)が担当する「介護」についてご紹介します。

 

スウェーデンでは、住み慣れた自宅で介護を受けて生活できるように、1980年代から在宅でのサービスの提供体制が整えられてきました。

その結果、高齢者の介護については自宅や施設でのサービスが中心となっており、病院で対応することは少なくなっています。

 

では、スウェーデンの在宅ケアの特徴をみていきましょう。

まず「訪問看護」については、自宅、施設のいずれも看護師や准看護師などの医師以外の職員が中心となって実施されています。

ランスティング(県)の所属の医師は参加しません。

訪問看護の現場では、インシュリン注射、胃ろうチューブを使っての栄養補給、尿道カテーテルの交換など、医療行為の一部を看護師が対応することが認められています。

 

そして、施設にも特徴がみられます。

高齢者向けの施設は法的に「特別な住居」と位置づけられており、「住宅」として扱われています(滞在期間によっては、賃貸契約を結び、家賃を払う必要があります)。

「特別な住居」には、介護の必要性が非常に高く、入居の必要があると看護師から認定された高齢者が入居できる仕組みとなっていますが、介護度による施設の利用制限がないため、最期まで同じ施設に住み続けることができます。

2016年10月時点では、人口の65歳以上の4.5%にあたる約9万人が「特別な住居」で暮らしています。

 

また、介護の大部分を占める自宅でのケアについては、洗濯や調理などの家事支援や、入浴・排泄介助などの身体介護を行う「ホームヘルプサービス」を24時間利用することができます。

そのほかに、身体機能の低下や障害で公共交通機関を利用できない方向けに、コミューンが業務委託したバスやタクシーを利用できる「移送サービス」など、様々なサービスが提供されています。

 

スウェーデンの在宅看護の根幹「エーデル改革」とは

医療はランスティング(県)、介護がコミューン(市町村)という分担で、充実した医療・福祉制度を実現しているスウェーデン。

在宅医療にケアの中心が移行している点については、日本が目指すべき姿にも重なります。

しかし、現行制度ができあがったのは比較的最近のこと。きっかけとなったのは、1992年に行われた「エーデル改革」です。

 

エーデル改革以前は、「ランスティング=医療」、「コミューン=社会福祉」という役割がより明確に分かれており、高齢者ケアの責任の所在も二分化されていました。

その結果、財政面での問題からコミューン側の受け入れ態勢の整備が進まず、入院での治療が終了してもランスティングが運営する病院に入院し続ける「社会的入院」が多く見られました。

これによって医療費がランスティングの財政を圧迫したり、病院のベッドが空かず、緊急の治療や入院ができなくなったりと、様々な問題が発生したのです。

 

そこで、政府はランスティングの領域だった「長期療養病院/地域療養ホーム」をコミューンに移管。

職員もコミューンの所属に変わり、高齢者向け施設(特別な住居)の運営やサービスの提供が、コミューンの責任の下で行われることとなりました。

同時に「訪問看護」についても、ランスティングとの契約によって移管できるようになりました。このように、高齢者ケアの主体をコミューンに一元化したのです。

 

これにより、社会的入院が大幅に減少し、入院待ちの患者数も減少。

そして、退院後の高齢者を受け入れるための「特別な住居」や、在宅での看護を提供する体制をコミューンが整備するきっかけとなったのです。

 

財政面、医療と介護の連携不足・・・スウェーデンの医療・福祉制度の課題

こうしてみていくと、理想的な在宅ケアを実現しているかのように見えるスウェーデンですが、この国でも医療・介護制度についてまだまだ課題があります。

 

まず、医療と介護の連携不足

ランスティングの医師と、コミューンの訪問看護師との連携があまりできておらず、特に在宅でのリハビリへの対応がうまくできていません。

また、エーデル改革で移管されることとなった訪問看護についても、ランスティングとコミューンが契約した場合のみ移管されるため、コミューンへの一元化が徹底されていないのが現状です。

今後、医療・介護で一貫したサービスを提供することが求められています。

 

そして、コミューンの財政面での問題

財政面の厳しさから「特別な住居」への予算を減らすコミューンが増えています。

そして、施設だけでは対応しきれずに、自宅でのホームヘルプサービスが中心となる一方、そのホームヘルプサービスについても介護の必要性が高い高齢者に集中する傾向がみられています。

その結果、介護の必要性が比較的低い高齢者を、家族が介護しなければならないケースが増えており、家族の負担増が問題視されています。

 

このような課題に対応するため、スウェーデン政府は2006年に「高齢者医療・高齢者ケア 10 か年国家戦略」を制定しました。

訪問看護をコミューンに一元化し、医師も積極的に関わることが明言されたほか、「特別な住居」建設に向けた補助金を政府が創設するなど、今後の高齢者介護について重要な事項がたくさん盛り込まれています。

 

高齢者により良い医療と福祉サービスを提供するために、常に課題に取り組み続けるスウェーデン。福祉国家の今後の動向に要注目です!

 

まとめ

今回はスウェーデンの在宅医療・介護制度をご紹介しました。高齢者ケアがすでに在宅中心となっているスウェーデンは、日本のお手本といえる存在でしょう。福祉先進国として歩み続けるスウェーデンから学ぶべきポイントは何か・・・この機会に改めて議論してみるのもよいかもしれません。

 

参考文献など

岡沢憲芙、中間真一編『スウェーデンー自律社会を生きる人びと』

レグランド塚口淑子編『「スウェーデン・モデル」は有効か ー持続可能な社会へ向けて』

厚生労働省 2017年 海外情勢報告https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kaigai/18/dl/t3-06.pdf

株式会社キャンサースキャン 諸外国における訪問看護制度についての調査研究事業報告書

https://cancerscan.jp/wp-content/uploads/2015/05/678803a33b72f64f190deb3ce3bfad6c.pdf

安藤範行 スウェーデンの介護事情~海外調査報告~

http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2008pdf/20080613014.pdf

伊澤知法 スウェーデンにおける医療と介護の機能分担と連携 ―エーデル改革による変遷と現在―

http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18095204.pdf

 

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