【海外の在宅医療・アメリカ編】家族による介護が大多数!アメリカの在宅医療・看護事情

日本の在宅医療だけでなく、海外の在宅医療に注目するシリーズ連載「海外の在宅医療」第4弾はアメリカです。国が社会保障に介入することが少なく、公的なサポートがあまり十分ではないアメリカでは、家族での介護が主流。しかし、介護を担う家族の負担を減らす体制が整えられているなど、独自の取り組みも見られます。そんなアメリカの在宅医療についてご紹介します。

【海外の在宅医療・オランダ編】 世界から注目されるオランダの在宅ケア「Buurtzorg(ビュートゾルフ)」とは

2018.05.15

【海外の在宅医療・イギリス編】認知症関連のケアが充実!イギリスの在宅医療・看護事情

2018.06.12

【海外の在宅医療・スウェーデン編】「在宅」が高齢者ケアの主流!スウェーデンの在宅医療・看護事情

2018.07.17

アメリカの社会保障制度の現状

自己責任の精神が大切とされるアメリカでは、社会保障面での政府の介入は少なくなっています。

公的な医療保険については、高齢者と障がい者を対象としたメディケア」と、低所得者を対象としたメディケイド」の2種類のみ。

現役世代など、どちらにも該当しない国民については、2014年以降、民間の医療保険に原則加入することが義務付けられています。

このように公的支援が少ない現状ですが、現在、高齢化とそれによって要介護者が増加していることが問題視されています。

2010年時点での長期的なケアサービス(介護)利用者数は約742万人で、そのうち65歳以上の高齢者の割合は83.4%(約619 万人)となっています。

高齢化率は、2011年時点では13.3%ですが、2040年には20%を超えると予想されており、今後事態がより深刻化することが予想されます。

 

また、先進国で唯一国民皆保険制度が導入されておらず、無保険者をかかえるアメリカですが、オバマケアにより無保険者が大きく減少しました。

しかし、トランプ政権に移行後、オバマケアを撤廃する動きがあり、社会保障制度が今後変化するかもしれません。

 

アメリカの公的医療保険制度メディケアとメディケイド

アメリカの在宅医療をご説明する前に、アメリカの医療保険、介護の現状をご紹介します。

まず、公的な医療保険については以下の2種が運用されています。

1.メディケア

高齢者及び障がい者が対象。政府(一部は民間事業者)が運営しています。加入者数は、5680万人で、2016年の支払い総額は6787億ドルとなります。対GDP比でみると、2015年には3.6%ですが、2041年には5.6%に増加すると見込まれています。

2.メディケイド

一定の条件を満たす低所得者が対象。政府のガイドラインに基づいて、州が運営する形式をとっており、州ごとに内容が異なっています。

 

メディケアが短期の医療ケアを対象としているのに対し、メディケイドは、長期の介護ケアも給付対象となっているのが特徴です。

 

アメリカには公的な介護保険は・・・ない

アメリカでは公的な介護保険は、現時点ではありません。

メディケア(医療や看護)の範囲となるケアについてのみ、メディケアとして公的支援を受けられるという形になります。

食事の宅配、入浴介助といった、医療的なケアに該当しないサービスにかかる費用は自己負担することとなります。

 

では、医療のメディケアと、貧困に陥った場合にのみ受けられるメディケイドのどちらでもカバーできない場合は、全額自己負担する必要があるのでしょうか?

実は、このような場合には「アメリカ高齢者法(Older Americans Act」によって、費用面での補助を受けられる仕組みとなっています。

ただし、州ごとに運用の状況が異なるほか、メディケアやメディケイドと比べると予算が少なく、サポートが十分とは言えないのが現状です。

 

このように、公的なサポートが十分とは言えない状況から、有償サービスでは経済的な負担が大きくなってしまうため、家族やボランティアなどから、無償のケア(インフォーマルケア)を在宅で受けることが主流となっています。

また、2009年の調査によると、65歳以降の高齢者のうち、93.4%がメディケアに加入していますが、同時に59.0%が民間の保険にも加入し、メディケアで補いきれない部分を補填しています。

介護費用によって貧困状態に陥った要介護者がメディケイドを利用する、というケースも多く見られます。

 

介護の概要-施設ケアと在宅ケア

それでは、アメリカの介護サービスについて、具体的にみていきましょう。

まず、大きく分けて施設でのケア在宅ケアの二つに分けられますが、いずれも民間事業者がサービスの中心となっています。

施設では、特別養護老人ホームと療養病床を合わせたような「ナーシングホーム」でのケアが中心となりますが、そのほかに在宅ケアとナーシングホームとの中間に位置する「アシステッドリビング」など様々な施設があります。

在宅ケアについては、家事支援、配食、といった医療には該当しないケアのほか、デイケアや、看護師などが専門的な医療ケアを行う在宅看護、ホスピス・緩和ケアなどが提供されています。

 

現在のアメリカでは、経済的な事情から、施設でのケアより在宅でのケアを受ける高齢者が多くなっています

2005年時点では、施設でのケアを受ける高齢者の割合は、6574 歳で2%、7584 歳で7%と非常に少なく、85 歳以上でも24%にとどまっています。

しかし、公的な支出の面では、施設への偏りがいまだに大きく、医療費抑制の観点から、ナーシングホームへの入居を未然に防ぐなどの取り組みが政府によって行われています。

また、先ほど少しご紹介しましたが、在宅ケアの主な担い手は、配偶者などの家族やボランティアで、地域に住む高齢者が受ける介護のうち、インフォーマルケアが占める割合は9割以上を占めるといわれています。

経済的な負担が大きいため、民間事業者による有償のケアが受けられず、やむを得ず家族にお願いする、というケースが多いといわれています。

このように自己責任の価値観が根付くアメリカでは、政府が介護を後押ししている、とは言い難い状況となっています。

しかし、家族介護者の負担が大きい、という問題点を解決すべく、独自の取り組みが行われています。

 

地域包括ケアを実現した「PACE

PACEとは、「Program of All-inclusive Care for the Elderly(高齢者のための包括的ケア・プログラム)」の略称のことで、在宅でのケアが困難で、施設への入所を州政府が認めた要介護者を、認められた後も自宅で生活し続けられるように、地域で包括的にサポートするプログラムのことを指します。

もともとはサンフランシスコのNPOとして1970年代に活動を開始したPACEですが、現在31州の124団体が加盟し、参加者は4.5万人程度と規模を全国に拡大しています。

 

参加資格は、

  1. 55歳以上であること
  2. 州政府が施設への入居を認めていること
  3. PACEのサービス提供圏内に居住していること
  4. PACEへの参加が本人または 第三者の健康や安全を脅かさないこと

これらを満たす必要があります。

メンバーとして登録された患者は、月ぎめの定額料金を支払うことでサービスが利用可能になります。

 

具体的なPACEのサービスを一点ご紹介しましょう。

PACEでは、プライマリケアを行うクリニックや、循環器内科、整形外科などの専門医、歯科医、薬剤師などが多職種が在籍する施設(デイケアセンターなど)の運営が義務付けられています。

この施設では医療関係者によるケアが受けられるだけでなく、管理栄養士による食事指導や、リハビリ、ソーシャル・ワーカーへの相談、そしてゲームなどのレクリエーションなど、様々なサポートを利用することができ、PACEの施設だけで医療から介護まで、ケアが完結するようになっています。

家族の介護による負担を軽減できるだけでなく、制度上の問題から、医療と介護の連携が不足しているアメリカで、地域全体で高齢者をサポートする効果的なプログラムといえるのではないでしょうか。

 

介護を「現物」給付!? 介護者をサポートする「レスパイトケア」

日本でも注目されているレスパイトケアは、ケアワーカーやボランティアが、夜間や週末などに介護を代行するサービス

レスパイト(respite」とは「ひと休み」という意味で、介護者の負担を減らすために、「介護の現物給付」という位置づけで利用されています。

一時的に介護を代行してもらうことで、介護者は趣味や休息など息抜きの時間を持つことができますが、介護を受ける高齢者にとっても、家族以外の人と接することで認知機能の低下が抑えられる効果があるといわれています。

レスパイトケアについては、2000年にアメリカ高齢者法に追加された、在宅で高齢者を介護する家族(介護者)をサポートする「家族介護者支援プログラム」の一つとして、支援の対象となっています。現在、半数以上の州がレスパイトケアプログラムを導入しています。

「家族介護者支援プログラム」では、レスパイトケア以外に、介護者への情報提供や健康・栄養についての個別指導、在宅サービスの紹介などのサポートが行われています。

家族への支援を手厚くすることによって、介護者である家族が、無理なく在宅ケアに取り組めるようになり、結果的に医療費を抑制することにつながっています。

 

まとめ

今回はアメリカの在宅医療・介護制度をご紹介しました。公的に費用を補助する仕組みは不十分であるものの、介護の主な担い手である家族をサポートする体制が整えられていたり、地域包括ケアを提供する事業者があったりと、在宅医療に無理なく家族が取り組める仕組みがつくられていることがわかりました。トランプ政権での社会保障制度については、まだ動向が不明ですが、今後どのように変化していくのか、注目する必要がありそうです。

 

参考文献など

厚生労働省:2017年 海外情勢報告

https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kaigai/18/dl/t2-04.pdf

新井 光吉, 『アメリカの介護者支援―PACEによる地域包括ケア拡大の可能性

http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/19857504.pdf

平山 , 『アメリカの家族介護者支援:現状と課題』

http://www.ritsumeihuman.com/cpsic/model1/27-39.pdf

()自治体国際化協会 ニューヨーク事務所, 『在宅サービスへ移行するアメリカの高齢者福祉~アメリカ高齢者法に基づく高齢者支援体制と非営利団体~』

http://www.clair.or.jp/j/forum/c_report/pdf/347.pdf

日本貿易振興機構(JETRO):米国高齢者介護関連市場調査

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2018/f4a0a12773c08667/201803usrp.pdf

国際長寿センター,『長寿社会グローバル・インフォメーションジャーナル Vol. 3 アメリカにおける長期介護をめぐる動向』

http://www.ilcjapan.org/chojuGIJ/03.html

認知症介護研究・研修センター ひもときネット海外認知症ケア情報:アメリカ

https://www.dcnet.gr.jp/retrieve/kaigai/houkoku_us.php

National PACE Associationhttps://www.npaonline.org/

 

【無料公開中】人気記事を資料にまとめました!

資料ダウンロード「感染予防」