日本の在宅医療だけでなく、海外の在宅医療に注目するシリーズ連載「海外の在宅医療」。第5弾は台湾です。介護制度が整備されている最中である台湾では、外国人労働者である「外籍看護工」が介護の主な担い手となっています。家族による介護に代わる存在である「外籍看護工」と、介護の現状をお伝えします!
台湾の高齢者福祉制度の概要
台湾の高齢化率は13.2%(2016年)となっており、日本と同様に高齢化が進んでいます。
しかし、2060年には38.6%になる予想で、日本を上回るペースで高齢化が進む予測がなされています。
そんな台湾ですが、介護制度については、2000年代後半から法律が整備されはじめるなど、まだ歴史が浅く、構築中の段階にあるといえます。
儒教思想が根付く台湾では、老後は子どもが親を扶養することが「孝行」であると古くから考えられてきました。
その結果、社会全体で取り組む介護制度については、整備が進まなかったというのが理由と考えられています。
では、現在、どのような介護制度が利用されているのでしょうか。
2015年に制定された「長期照顧服務法」(介護サービス法)、2008年から実施されている「長期照顧十年計画」(介護サービス十年計画)などに基づき、65 歳以上の要介護高齢者や55歳以上の原住民族、50~64歳の障がい者に介護サービスが提供されています。
また、介護サービス十年計画が2017年に改定されてからは、49歳以下の障がい者、50歳以上の認知症患者などにも適用が拡大され、介護制度の充実に向けて政府が取り組んでいることがわかります。
提供されているケアは、在宅ケア、地域(通所)ケア、施設ケアの3種に分かれています。
これらの公的なケアを利用したい場合は、直轄市や県市政府(日本の都道府県や政令指定都市)から要介護認定を受けることで利用できます。
2014年時点での要介護認定者数は約15.5万人で、在宅ケアと施設ケアの利用が多くなっています。
しかし、2013年の要介護高齢者(認定者ではない)は約44万人で、公的にはカバーしきれていないのが現状です。
また、介護保険制度については、以前導入が検討されていたものの、現段階では実現していません。
台湾の介護の中心は外国人労働者―「外籍看護工」とは
公的な介護サービスを受けていない高齢者は、一切介護を受けることができないのでしょうか。
台湾では、外国人の介護労働者である「外籍看護工」が主に家庭で介護にあたっており、要介護高齢者の約4割をカバーしているといわれています。
外籍看護工は2015年時点で約22万人で、そのうちの99.4%が女性です。
1989年から受け入れが開始され、1992年には300人程度だったものの、90年代後半から急激に増加し、現在では介護の一番の担い手となっています。
国籍を見てみると、8割以上がインドネシアからの労働者で、フィリピン、ベトナムと続きます。
外籍看護工がこれほどまでに普及したのは、台湾の伝統的な価値観と、女性の社会進出が背景にあります。
台湾では、老後は子どもが親を介護し、扶養することが大切と考えられていますが、1990年代以降女性の社会進出が進み、家族だけで介護することが困難になっていきました。
そこで、介護は外籍看護工に任せるスタイルが一般的になったのです。
また、施設に入居する場合と比較して、外籍看護工を家庭で雇用する方が経済的な負担も軽くなるという点も理由の一つであると考えられています。
外籍看護工の仕事内容と技術
台湾の介護の中心的な担い手である外籍看護工。仕事内容はどのようなものになるのでしょうか。
まず、外籍看護工の多くは家庭に住み込みで雇用されており、雇用主の父母や配偶者を介護するケースが9割以上をしめています。
仕事の内容は、入浴・排泄介助などの介護ケアのほか、料理、洗濯などの家事も一緒にこなすヘルパーの役割を担っています。
また、名前は「看護工」ですが、専門的な看護ケアをすることはできません。雇用期間は原則3年で、希望によっては最大15年まで延長することができます。
外籍看護工になるための資格については、現時点では特にありません。
ただし、国外で言語や介護などに関する技能研修を100時間受けることが必要です。
また、「長期照顧服務法(介護サービス法)」が制定されたことにより、定期的な技能研修が実施されることになっています。
このような研修の結果、外籍看護工の介護技術については、雇用主の6割程度が「よい」「まあよい」を選択しており、能力を高く評価していることがわかっています。
外籍看護工の受け入れにおいての課題
台湾では、家族での介護や公的な介護制度でカバーできない部分を補う存在として、外籍看護工が活躍してきました。
2015年の調査では、「外籍看護工を雇用してよかったこと」として、雇用主の90.75%が「適切な介護を得られた」、65.04%が「精神的負担が軽減された」と回答しており、社会の中でなくてはならない存在となっています。
しかし、解決すべき課題も多くあります。
まずは、賃金、労働時間などの労働条件が悪いこと。
賃金については、月平均1万8770台湾元(約6万1000円)で、台湾の平均月収を4000円ほど下回っています。
2000年以降、上昇傾向にはありますが、依然低いままとなっています。
また、労働時間については、契約がないまま働いているケースも多く、1日あたり平均12~13時間と長時間労働が目立ちます。
休日がないとの回答も約36%あり、労働条件は良くないのが現状です。
残業代未払いやハラスメント行為を受けるなどの雇用主とのトラブルに発展するケースや、労働者が失踪してしまうケースもみられます。
また、ブローカー制度も問題点のひとつです。
外籍看護工を家庭にあっせんする派遣業者や、送り出し国の業者が、旅費や手数料などとして、給料のほとんどを差し引いてしまうケースが多くみられてます。
これらの課題の解決のために、地方自治体では、カウンセラーを配置して労働者のストレスケアを図ったり、出身地の文化的なイベントを開催したりと、様々な対策に取り組んでいます。
また政府も、ブローカーの取り締まりを厳しくするなど、少しずつ対策に取り組みつつあります。
まとめ
今回は、外国人労働者である「外籍看護工」が介護の主な担い手となっている台湾をご紹介しました。介護のマンパワー不足が深刻である日本でも、外国人労働者の受け入れが今後進むと考えられます。台湾の介護の現状や課題から、これからどのような介護制度を実現するべきか。皆さまの参考となりましたら幸いです!
参考文献
金 成垣、大泉 啓一郎、松江 暁子編「アジアにおける高齢者の生活保障―持続可能な福祉社会を求めて」
小島 克久「台湾の社会保障(第3回)台湾の高齢者介護制度について」
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/sh18020414.pdf
西下 彰俊「台湾における高齢者介護システムと外国人介護労働者の特殊性―在宅介護サービスを中心に―」
http://repository.tku.ac.jp/dspace/bitstream/11150/10908/1/genhou32-03.pdf
城本 るみ「台湾における外国人介護労働者の雇用」
宮本 義信「台湾の外国人介護労働者の今日的動向─介護保険制度化をめぐる状況を中心に」
大野 俊「岐路に立つ台湾の外国人介護労働者受け入れー高齢者介護の市場化と人権擁護の狭間で」
https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/17927/p069.pdf