【海外の在宅医療・デンマーク編】世界で最も幸福な国。デンマークの在宅医療・看護事情

日本の在宅医療だけでなく、海外の在宅医療に注目するシリーズ連載「海外の在宅医療」。第7弾はデンマークです。高福祉ゆえに、世界一幸福な国家の一つにあげられるデンマーク。2016年の世界幸福度調査で世界1位になったほか、調査が開始された2012年から2018年の全てでベスト3入りする快挙を成し遂げた国でもあります。そんなデンマークの在宅医療についてご紹介します。

【海外の在宅医療・スウェーデン編】「在宅」が高齢者ケアの主流!スウェーデンの在宅医療・看護事情

2018.07.17

医療、介護は「地域」が主体!そしてすべて無料。デンマークの医療・福祉制度

デンマークでは、医療・介護については、どちらも地域が主体となって運営しています。

医療についてはレギオナ(広域自治体)、看護・介護についてはコムーネ(市)と、大きさは違いますが、どちらも国ではなく、地域が主体です。

少しイメージしにくいかもしれませんが、レギオナは、複数のアムト(県)が、2007年に統廃合されて作られた広範囲の行政単位になります。以前紹介したスウェーデンと似た体制になっていますね。

現在デンマークは、5個のレギオン、98個のコムーネで構成されており、人口はレギオナがそれぞれ100万人、コムーネがそれぞれ5万人程度となっています。

そして、医療、介護・看護のどちらも、税金で賄われており、日本のような医療・介護保険制度は存在しません

税金としての負担が大きくなります(消費税は、なんと一律25%!)が、医療、福祉、教育については費用を自己負担することなく、サービスを受けることができます。

また、民間の事業者が進出するケースも増えてはいますが、公的なケアがいまだに多くを占めていることも特徴です。

 

【医療】家庭医が大きな役割を果たす「プライマリ・ケア」

まずは、医療についてご説明します。

これまでご紹介したヨーロッパの国々と同様に、家庭医によるプライマリ・ケアが導入されています。

家庭医については、国民一人ひとり、自分で自由に選ぶことができ、家庭医一人が1500人の患者を担当しています。

そして、医療サービスを受けたい場合は、直接病院で診察を受けるのではなく、まず家庭医を受診し、必要に応じて病院を紹介してもらう、という仕組みになっています。

家庭医は、けがや病気の治療だけでなく、検診や予防接種、妊婦の健康管理、さらには家庭生活での悩みの相談にのることもあり、単なる治療にとどまらず、豊かな生活を送るためのサポート役として認識されているようです。

デンマークでは90%は家庭医での対応になるとのことです。

 

また、家庭医が用いるカルテや処方せんなどのデータはすべて電子化されています。

診療内容を地域のデータベースに送ると、診療ガイドラインにどれほど適合しているかチェックできる、というような使い方もされています。

そして、治療方針については、全て患者の判断によって自己決定されます。

どのような治療を受けるのか、注射などの処置を受けるのか、健康診断をいつ受けるのかなど、全て患者の意思が尊重されることとなっています。

 

【介護】高齢者施設は廃止へ。現在は24時間の在宅ケアが主力

デンマークでの介護の主体は「在宅」。といっても全てが自宅でのケア、というわけではありません。

24時間の介護がついた「プライエボーリ」や、自立した高齢者向けの「エルダーボーリ」などの「高齢者住宅」でも、自宅と同様に過ごし、ケアを受けられるようになっています。

一方、高齢者施設については、廃止に向けて取り組んでいるところになります(当初は2005年に全て廃止される計画でした)。

 

現在は在宅でのケア中心となっていますが、元々は日本の特別養護老人ホームにあたる「プライエム」や「保護住宅」といった、施設でのケアが中心でした。

しかし、1988年にこれらの施設の新設が法律で禁止され、代わりに自宅と同様の「高齢者住宅」が作られることになります。

自宅でも高齢者住宅でも、どこでも24時間ケアが受けられる仕組みになっています。

 

このように変化したのには、二つの要因が背景にあります。

一つ目は「住まいとケアを分離すべき」という政府の方針が挙げられます。

施設では、住まいとケアがセットになっているのが通常です。つまり、個人に合わせたケアが提供されるのではなく、施設に合わせてケアの量が決められることになります。

そこで政府は、ケアは地域で提供されるべきであること、そしてケアの内容や量は個人に合わせて考えられるべきであるとの方針を示しました。

 

二つ目は、1982年に示された「高齢者三原則」です。

高齢者も自分のことは自分で決め、自分で行動する「自立性」が重んじられています。

介護を受ける人、というよりは、高齢者も生活の主体と考える姿勢がうかがえます。

<高齢者三原則>

  • 自己決定

これまで暮らしてきた生活と断絶せず、継続性をもって暮らす

  • 自己の能力の活用

高齢者自身の自己決定を尊重し、周りはこれを支える

  • 生活の継続性

今ある能力に着目して自立を支援する

これらの理由から高齢者施設は減少し、代わりに自立した生活をサポートする高齢者住宅の利用が増えています。全て「在宅ケア」で対応できるよう、環境が整えられているのです。

 

個人に合わせた在宅ケアとは

個人に合わせたケアを地域が提供できるよう、在宅ケア中心に移行したデンマーク。どのような在宅ケアを行っているのでしょうか。

まず対応時間ですが、24時間ケアが行われます。

週当たりの利用時間をみてみると、2時間以下の短時間の利用者が約6割を占めています。週当たり20時間以上など長時間にわたる場合については、1回の訪問時間は15分程度と短くなるものの、1日に複数回訪問する形が多くなっています。

ケアの内容については、自治体の判定員が、ケアの希望者にアセスメントを行い、提供可否や時間、どのようなケアが必要かについての判断を行います。

日本の要介護認定を受けて、介護の内容を決める、という形式に似ていますが、デンマークでは要介護度の認定はなく、利用回数の制限も設けられていません。

訪問看護、身体介護、家事援助のほか、配食サービス、デイケア、移動のサポートといったケアが、個人にあわせた回数(時間)で提供されています。

ケアを担当するのは、看護スタッフと介護スタッフ。看護師や、専門的な教育を受けたSSA(社会福祉保健アシスタント)、SSH(社会福祉保健ヘルパー)が担当しています。

特に訪問看護師は在宅ケアにおいてとても重要な存在で、ケアプランの内容や回数の見直しや、介護チームとの連携をコーディネート、医療的ケアの提供のために家庭医との橋渡しといった、大きな役割を果たしています。

 

認知症ケアで大きな役割を果たす「認知症コーディネーター」

このように充実した在宅ケアが行われているデンマークですが、認知症高齢者が増加し続けており、国家戦略として認知症に取り組むなど、対策に注力しています。

日本と同様の状況にあるといえますが、そんな中、認知症ケアで大きな役割を果たしているのが「認知症コーディネーター」です。

認知症コーディネーターは、2000年ごろに新設された資格で、看護師など専門的な資格を持った人が数年の実務経験を経たのち(10年以上が多いようです)に、認知症コーディネーターとしての研修を100時間以上受けることで取得できます。

国家資格ではありませんが、政府がコムーネに配置を推奨するなど、国をあげて積極的に活用しています。

 

仕事については、日本のケアマネージャーと同様にケアプランの作成などを行いますが、それに加えて、理学療法士や作業療法士、ソーシャルワーカー、医師などの多の専門職や、地域住民、家族を結びコーディネートする役割も担います。

また、一緒に働く介護職員の相談や教育、不安を感じている家族への情報提供や地域での勉強会の開催なども認知症コーディネーターが行います。とても幅広い業務に取り組んでいることがわかりますね。

デンマークでは、1960年代には認知症高齢者の対応の難しさから、精神病院で社会的に隔離してしまうケースが多かったことがわかっています。

しかし、1980年代に、高齢者も人間らしく、当たり前の日常生活を送ることができるように、在宅や地域でのケアにシフトしていきました。

一方、地域で認知症の高齢者受け入れるにあたって、介護職員や家族、地域への教育や、医療・介護の連携、高齢者の個別対応などが新たに求められるようになりました。

認知症コーディネーターは、これらの課題を解決するにあたって大きな役割を果たしています。

 

また、少し話が変わりますが、デンマークの認知症コーディネーターを参考にし、要請する制度を、福岡県大牟田市が独自に設けています。認知症コーディネーターは、在宅医療へシフトしつつある日本にも、とても参考になる存在といえるでしょう。

 

まとめ

今回はデンマークの在宅医療・介護制度をご紹介しました。世界で最も幸福な国の一つとされるデンマークですが、高福祉の背景には誰もが人間らしく、自立した生活を送れるように、という願いが込められていることがわかります。地域で自立した生活を送れるよう、医療・介護が地域で連携して取り組んでいるデンマークから学べることも多いのではないでしょうか。皆様のヒントになることができましたら幸いです。

 

参考文献など

小磯明「デンマークの認知症ケア国家戦略」

World Happiness Report 2018

https://s3.amazonaws.com/happiness-report/2018/WHR_web.pdf

松岡  洋子「デンマークの高齢者住宅とケア政策」

http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18879306.pdf

汲田 千賀子「デンマークの認知症ケア国家戦略と福祉・介護人材」

http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/20038605.pdf

公益財団法人東京都医学総合研究所「認知症国家戦略の国際動向とそれに基づくサービスモデルの国際比較研究」

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/topics/dl/130705-2/2-38-2.pdf

認知症介護情報ネットワーク 海外認知症ケア情報「デンマーク」

https://www.dcnet.gr.jp/retrieve/kaigai/houkoku_de.php

大牟田市 認知症関連

https://www.city.omuta.lg.jp/hpkiji/pub/List.aspx?c_id=5&class_set_id=1&class_id=136

 

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